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- 2010年6月16日
悔しさがまさった熱き一夜
どれほどの重い十字架を背負い、選手たちはこの日を迎えたのだろう。どうしてこれほどまでに強い悲壮感を、彼らは漂わせなければならなかったのか。
その表情は誰ひとりとして躍動しておらず、むしろ状態は真逆にあった。90分を通じ、彼らは一様に感情を消し去っていたのだ。
試合も淡々としたものだった。
最後まで嬉々とする様子はなく、2002年のベルギー戦でゴールを決めた稲本潤一が、してやったりの表情でピッチを疾走したごとく瞬間にも出会えなかった。本田圭祐のゴール時も爆発は一瞬だった。待望の先制点も、チームにはつらつとした活力を取り戻させることはなかった。
感情を放出させると、今日の試合を戦い切る原動力を失ってしまう。だから爆発できずにいる。そんな思いに捕われているようにさえ思えた。
集中力を持続させる上で必須の原動力、それは自信ではない。
恐怖である。
負けたら決勝トーナメント進出は圧倒的に厳しくなるという、ワールドカップ初戦特有の重圧が彼ら選手を追い込んだのは確かだ。しかしその重圧には、本来なら不要だった圧力も混ざっていたという指摘を否定することはできない。
チームは最後まで自分たちの形を手にできなかった。こうすれば戦えるという確信を得られずに、ワールドカップを迎えてしまった。逃げることを許されない彼らには、付け焼き刃の武器をもって、大勢が見つめる弱肉強食のジャングルに足を踏み入れる以外に道はなかった。
高揚感が体内をかけめぐっただろうか。
それ以上に恐れこそが、体の奥底からわきあがってきたと考えるのが妥当といえる。だから感情を消し去った。平常心をつくりだすため、恐れを沈めるために、である。
試合後、インタビューに応じる本田は軽口を叩いた。が、その表情に高揚感を見つけることはやはりできなかった。
90分の激しいゲームを終えたばかりである。本来なら赤みを帯びてもおかしくない面もちは蒼白で強張り、まるで能面のようだった。強引に浮かべた笑みは薄く広がり、のっぺりと抑揚のない表情からは、勝利を誇示する満ち足りた趣きは皆無に見えた。
いまだ実感がないのか。極限まで集中しきったゆえ、押し殺した感情を取り戻せずにいるのか。もし初戦を終えただけという、心身ともに前向きな状態にあるのなら状況は正常だ。しかしそうとは思えない。
日本中が見つめる初戦で本田を1トップに起用したことで、日本代表は新しいステップを踏んだ。結果が得られたことで、チームはいっそうの化学反応を続けていく。本田の求心力もあがっただろう。次戦の内容次第では、一気に本田を軸としたチームになる可能性もある。
だが、すべては結果を出したからである。カメルーン戦を迎えるまで本田は孤高と称されていた。だから、勝利を目指し戦う上で、自身のクオリティー以外に信じ切れる要素はなかった。そう思えてくるのである。
4年前、ドイツでのオーストラリア戦を体験している中澤佑二にしても、今宵の終盤を自信満々で迎えていたとは思えない。ワールドカップを迎えるにあたり、ディフェンスにおける懸案事項が解決されていなかったためだ。
昨年のガーナ戦ではアフリカ人の一瞬のスピードを思い知り、壮行試合の日韓戦ではパク・チソンに振り切られた。イングランド戦とコートジボワール戦でも終盤に地獄へ突き落とされている。
こうしたすべての問題を解決する術に確信を抱き、中澤は試合を迎えていたのかと問えば、どう考えても答えはノーだ。
阿部勇樹をアンカーに起用したのはイングランド戦からである。本田の1トップ起用を含め、突貫工事でなされたシステム変更は、登録選手を選び終わった後におこなわれたものだ。このデタラメに翻弄された中澤が、ジンバブエを含めた3戦で、過去の悪夢を払拭するに足る完成度を手にいれたとはとうてい思えない。
そして試合は、あの暑いドイツでの一戦と同じように先制し、終盤を迎えた。不安感や恐怖と隣り合わせの状況だったと想像するには、それほど無理がないように思われる。
勝因は、戦術や技術やチームメイト、依存を可能とする要素はすべて自分の内から排除して、自分の役割を淡々とこなしたことにある。ただひたすら自分と向きあった結果、最後まで集中力は途切れず、勝利が転がり込んだのだ。大舞台を前に確固たる自信を持てず、要らぬ恐怖さえ押し殺して立ち向かったからこそ、勝ち点3を得ることができた。
だからこそ、思う。
なぜここまで選手たちは追い込まれなければならなかったのか。毅然と、堂々と世界に挑むという本来あるべき姿を、いったい誰が取り上げたのか。
監督や協会だけではない。迷走を許してしまった日本サッカーの総合力の弱さを思うと、勝利への喜びにも増して、悔しさがこみあげるのである。
(小山内隆=文)
コメント(2)
- massa552010年6月16日 9:35 PM
選手を追い詰めた、ですか。
トルシエ監督時代、あるいはそれ以前から成長していない大半のメディアの責任は書き忘れですか?
我々一般人も、監督や選手へのリスペクトの欠如を反省すべきだとは思います。
現状、リスクとリターンが見合っておらず、代表関係者にはあまりに酷な状況です。
- ゴゴプラッタ2010年6月17日 12:59 PM
ん?何が言いたいのかよくわからなかったです。もの凄い重圧を感じて戦うことは、選手にとって誉れだと思うんですけどね。
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[塾生]小山内隆- takashi_osanai
- 1971年生まれ、東京出身。サーフィン誌を軸に活動中。スポーツライターを目指して金子塾へ。最近のテーマは「東京を拠点とするチームにとっての地域密着とは?」です。
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