[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】日本の地盤沈下が招いた“監督空白”
かつて、Jリーグが欧州から「年金リーグ」と揶揄(やゆ)された時代があった。そこには、盛りを過ぎた元スターに大金を払う日本人に対する侮蔑(ぶべつ)と、元スターであるがゆえに大金を受け取ることのできるロートルに対する嫉妬(しっと)が入り交じっていた。わたし自身、欧州のクラブを取材するたびに「俺(おれ)を日本に紹介してくれないか」という選手の売り込みと「ウチの選手は売らないよ」というクラブ側の冗談めかした拒絶に幾度となく出くわしたものだ。
あの頃の日本は、良くも悪くも“黄金の国”だった。
リーグ自体のレベルは、いまとは比較にもならないぐらいに低かった。ただ、日本という国に対する評価は、いまとは比較にもならないぐらいに高かった。米国がサッカーに興味を示していなかった時代、日本はサッカー界における世界一の経済大国だったのだ。自分も日本に行ってみたい。チャンスをつかんでみたい。そう考える欧州のサッカー関係者は、決して少なくなかった。
日本代表の監督選びが依然として難航している。火曜日の記者会見では、交渉にあたった原強化担当技術委員長の責任を問う声もあがったという。確かに、この時期になっても次期監督が決まっていないのはいささかお粗末ではあるものの、これは彼だけの責任ではない。日本サッカー協会だけの責任でもない。
最大の原因は、日本という国の地盤沈下にある。
かつてドイツ代表の主将として活躍したローター・マテウスは、南アフリカでのW杯大会期間中から、ある国へのラブコールを送っていた。もし次の監督が決まっていないのであれば、自分はどうか。自分であれば、次のW杯には確実に出場することができる。結果的に彼の元にオファーは届かなかったようだが、わたしは、一連の騒動にかつての日本をダブらせずにはいられなかった。マテウスが秋波を送ったのは、中国だったのである。
中国リーグのレベルは、いまのところJリーグよりも落ちる。横行するラフプレーは、中国国内でも問題視されていると聞く。W杯南アフリカ大会予選では、最終予選にすら残れなかった。それでもマテウスが中国に魅力を感じたのは、中国のサッカーというよりも、国自体のポテンシャルに惹(ひ)かれたからではないか。かつて、多くのサッカー関係者が日本に惹かれたように。
日本という国に斜陽のイメージを抱く人が生まれつつある以上、サッカー界のみで現状を打破するのは簡単なことではない。イングランドやドイツを見ていると、サッカー人であれば誰もが憧(あこが)れるような、素晴らしいスタジアムの存在は大きな武器になると思うのだが、政治家や官僚といった権限を持つ側に、そうした発想を持つ人間が見当たらないのが現状である。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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