[スポーツライター] 金子 達仁

  • 2010年8月25日

【スポーツニッポン】代表は指導者育成の場にあらず

 代表監督の選考に際し、優先順位が「日本を理解しているか否か」から「有能か否か」あるいは「実績があるか否か」に変わったことを評価したい。先週のコラムではそう書いた。監督の決定が多少遅れるのは仕方がない、とも。

 だが、遅れている理由に「日本人コーチを受け入れること」という条件に対する相手方のアレルギーがあるのであれば、いささか話は変わってくる。

 サッカーの監督とは、孤独な職業である。そして、理解されにくい職業でもある。最善の手を尽くしても一つのミスですべてが崩壊してしまうこともあれば、愚挙に次ぐ愚挙を繰り返していても、結果だけは伴ってくれることもある。ともに戦う選手に対しても、弱みや狼狽(ろうばい)しているところを見せるわけにはいかない。うろたえている指揮官、パニックに陥っている指揮官の言葉が、選手たちの胸に届くはずもないからだ。

 とはいえ、監督といえども人間である。うろたえる時、あわてる時は必ずある。そんなとき、重要になってくるのが、時に監督の愚痴の聞き役に回り、時に選手やメディアの目から監督の心理状態を隠すことのできるスタッフの存在である。たいていの場合、それは「腹心」と呼ばれるコーチの役目となる。

 なぜマラドーナは代表監督を辞任したのか。ファンが望み、協会も望み、本人も望んでいたにも関(かか)わらず、監督をやめることになったのか。協会がスタッフの入れ換えを求めたからだった。自分をなだめ、支え、守ってくれた仲間の更迭が続投の条件とされたからだった。

 コーチの果たす役目とは、かくも大きい。

 日本サッカー協会が日本人コーチの入閣を望む気持ちはわかる。世界的名監督を招聘(しょうへい)する以上、日本人にもそのエッセンスを学ばせておきたい。今後の日本サッカーのために人材を育成したい。そういうことなのだろう。だが、異国に招かれる側の受け止め方は違う。ほとんどの人間は、スパイ、もしくは監視役を押しつけられた、と感じる。

 そして、そうは感じない例外的な監督にしても、スタッフの中に赤の他人が入ることに抵抗感を覚えないはずはない。結果を求めなければならない自分の下に、勉強をしたいという立場の人間がいることにも反発を覚えるだろう。なにより、赤の他人が一人入ることによって、監督は、心休まる場を失うことにもなる。

 代表は、結果を求める場であり、育成の場ではない。選手についてだけではない。指導に携わる人間についても同じことは言える。日本人コーチ育成のために、日本行きを考えた有能な人材を取り逃がすようなことがあれば、まさしく本末転倒である。

[スポーツライター] 金子 達仁



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