[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】プレミア構想の前にスタジアム整備を
70年代に黄金時代を築いたものの、その後は凋(ちょう)落の一途をたどったボルシア・メンヘングラッドバッハというクラブがある。なぜボルシアは、弱くなってしまったのか。ボルシアといえばグラッドバッハだった時代は、なぜドルトムントに取って代わられてしまったのか。10年ほど前、当時の会長に疑問をぶつけたことがある。
「もちろん理由はたくさんあるのですが、一つに、スタジアムの問題があったことは事実でしょうね。昔は、魅力的なサッカーさえ提供していれば、お客さんは無条件で集まってくれた。けれども、娯楽の選択肢が広がったいまは、スタジアムにも快適性が求められる時代なのです。我々は、資金力不足の問題もあって、完全に時代の流れから取り残されてしまった」
ボルシアがホームとしていたベーケルベルクというスタジアムは、丘陵の斜面を削って作られた、実に風情のある競技場だった。だが、屋根のないバックスタンド、イス席のないゴール裏、圧倒的に少ないトイレや売店といった要素を考えると、観客に我慢を強いるスタジアムであったことも間違いない。ドルトムントのヴェストファーレンに比べれば、スタジアムに足を踏み入れた際の衝撃、感動ははるかに小さかった。
自嘲(ちょう)気味に会長は言った。「父親の立場になって考えてください。週末、子供と一緒に出かけるのに、雨が降ればびしょぬれになってしまうスタジアムと、快適に観戦できるスタジアム。どちらに出かけますか?」
幸い、ボルシアは地元政財界、さらには住民の圧倒的なバックアップを受けて、近代的な新スタジアムを建設することができた。落ちる一方だった流れは、止まった。スタジアムによって滅びかけたクラブは、スタジアムによって蘇(よみがえ)ったのだ。
21世紀の現在であっても、魅力的なサッカーを提供できていれば、快適性の欠如を我慢するファンはいるだろう。だが、それが提供されなくなった時、チームが弱くなった時、貧弱なスタジアムは客離れを止められない。これはサッカーに限ったことではない。甲子園があったからこそ、長い暗黒時代があったにも関(かか)わらず、阪神タイガースは生き延びることができたのだとわたしは思う。
そこに行かなければ味わえない雰囲気と、快適性。いまの日本に、その両方を兼ね備えたスタジアムがいくつあるだろうか。
Jリーグでも収容人員の大きなスタジアムを持つビッグクラブだけでJ1の上に10チーム程度でプレミアリーグをつくろうという構想が一部で話題となった。だが、臨場感を著しく損なわせる陸上トラック付きのスタジアムが減らない限り、いかなる策を講じようとも、Jリーグがプレミアムなリーグになることは難しい。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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