[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】世界に知らしめた育成システムの重要性
ラウルとデラペーニャがレストランで一緒に食事をした。その写真がスポーツ紙の1面に掲載され、ファンの間に大論争を巻き起こしたのは95年のことである。レアル・マドリードとバルセロナのスターの間に友情が存在する。そのことを許せないファンが、15年前のスペインでは必ずしも少数派ではなかった。
タイムアップの直後、カシージャスとプジョルは熱い抱擁を交わしていた。レアルとバルセロナのキャプテンが、涙ながらに抱き合っていた。初めてのW杯優勝は、スペイン・サッカーにとってはもちろんのこと、スペインという国自体にも大きな変化をもたらすはずである。
世界のサッカー界にとっても、スペインの優勝は74年大会におけるオランダの出現にも似た、歴史的なターニング・ポイントとなるかもしれない。ケンペス、ロッシ、マラドーナ、マテウス、ロマーリオ、ジダン、ロナウド…。前回大会のイタリアを除くと、歴代の優勝チームには必ずといっていいほど、1人で状況を打開できるスターがいた。大舞台になるとなぜか力を発揮する、天から才能を授かったとしか思えない男が、母国にカップをもたらしてきた。
だが、今回のスペインに、そういった存在はいない。イタリアのように、守備の力で勝ち上がったわけでもない。彼らは攻めた。必ずしも本調子ではなかったが、若年層からの教育による成果を全面的に押し出しつつ、攻めた。攻撃を、得点を天から授かった才能に委ねるのではなく、自分たちの力で開発してみせた。74年のオランダは、全世界にトータル・フットボールという概念を広めたが、今回のスペインは、ボール・ポゼッションと育成型フットボールの重要性を、改めて世界に知らしめることになるだろう。
ブラジルは、ドイツは、イタリアは、いつの時代もブラジルでありドイツでありイタリアであり続けている。もちろん、監督の哲学や選手の駒によって変化はあるものの、歴史的な伝統は必ずや息づいている。だが、いまのスペイン代表に、82年に地元開催したチームとの共通点を見いだすことは難しい。サッカーは国民性を表すスポーツだと言われるが、スペインは国民性ではなくサッカーを変えた。変えることなど不可能だと思われていたことをやってのけた。これもまた、歴史的な快挙と言っていいだろう。
個人の才覚に頼るサッカーは、個人の衰えとともに輝きを失う。トータル・フットボール時代のオランダでさえも、クライフの引退以降は長い暗黒時代に突入した。
だが、育成に衰えや引退はない。勝てない無敵艦隊と言われ続けてきたスペインだが、この優勝は“スペイン王朝”時代の幕開けを告げるものになるかもしれない。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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