[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】素晴らしすぎる“攻撃的”3位決定戦
素晴らしい、いや、素晴らしすぎる一戦だった。ミュラーの抜け目ない先制点、美しいカウンターから決まったカバーニの同点弾、フォルランの芸術的なボレー、ヤンセンの勇敢なヘッド、ケディラの決勝点、そして、バーを叩いたフォルランのFK。試合内容も、展開も、今大会最高と言える一戦だった。
そんな試合が、3位決定戦で生まれてしまった。
準決勝でのドイツは、それまでの戦いぶりはなんだったのかと思いたくなるほどに守備的だった。ウルグアイは、そもそも相手の良さを消すところから始まっているチームである。1次リーグで、あるいは決勝トーナメントで両者が対決していれば、試合は恐ろしく退屈なものになっていた可能性が高い。
負けたくないという思いが強すぎるがゆえに。
考えてみれば、カテナチオというイタリア語がかくも世界的に認知されるようになったのは、徹底的に守りを固めるというイタリア人のスタイルが、世界的に見て特殊だったから、ではないのか。多くの国が攻撃力を磨くことこそが成功への近道と考える中、守備に目を向ける姿勢が希有(け う)だったから、人々の印象に残ったのではないか。
だが、イタリアの専売特許のはずだった守備へのこだわりは、いまや世界の常識となってしまった。勝つための近道が攻撃力の強化だった時代は終わり、相手の良さを消すことが第一と考える国が多数派になった。
かつてのW杯であればいたるところで遭遇することのできた興奮やドラマは、すっかり希少な存在となってしまった。
なぜこんなにも素晴らしい試合が3位決定戦で生まれてしまったのか。両チームがリスクを恐れずにプレーしたという点はもちろんあるが、それ以上に大きかったのは、両チームが真剣に戦ったということだろう。皮肉なことに、W杯が面白かったころの3位決定戦は、気の抜けたビールよりもひどい味わいのものが多かった。
だが、大会が巨大化したことで、21世紀の選手たちは3位という順位にもそれなりの価値を見いだすようになったらしい。そして、3位決定戦であれば、それまで封印してきた攻撃的なサッカー、自分たちがやりたかったサッカーを全面的に展開できる、という思いもあったようだ。ドイツはもちろんのこと、ウルグアイの選手でさえも。
素晴らしすぎる3位決定戦は、現代のW杯を戦う選手たちが、いかに巨大な足かせをつけられているかを証明するものだった。残念なことに、今後、足かせはより重さを増すことはあっても、消える、あるいは軽くなることはない。
楽しいサッカーを見たければ、クラブのサッカーを見るしかない。そういうことなのだろうか。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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