[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】日本が目指すべきスペインのボール保持力
初の決勝進出を決めたスペインのサッカーを、日本のメディアは「美しいパス・サッカー」であると称賛している。スペインに留学し、スペインのサッカーを愛してきた人間としては、悪い気持ちはしない。ただ、今大会のスペインのやっているサッカーが美しいとはわたしには思えない。パス・サッカーだとも思えない。バルセロナとの比較論において、そう思う。
確かに、スイスとの初戦におけるスペインは素晴らしかった。美しくもあり、パス・サッカーでもあった。W杯史上に残る名勝負だった、とも思う。だが、ここで黒星を喫したことで、以後のスペインは完全におかしくなってしまった。ほぼバルセロナのようだったチームは、バルセロナの選手がいるだけのチームに成り下がってしまった。パラグアイ戦で底を打ち、ドイツ戦ではかなり復調の気配を見せたものの、いい時のバルセロナを10とすれば、せいぜい4ぐらいのレベルだとわたしは見ている。
いい時のバルセロナと悪い時のバルセロナ。その違いは、ボールタッチ数になって表れる。いい時のバルセロナは、ダイレクトでポンポンとボールを回す。悪いバイオリズムに陥ると、ドリブルが増える。2タッチ以下のプレーが大半を占めるのがいい時のバルセロナだとしたら、3タッチ、4タッチ以上のプレーが多いバルセロナは、スランプにあると言っていい。
準決勝のスペイン代表には、印象的なダイレクトのプレーがほとんどなかった。準々決勝での決勝ゴールは、イニエスタのドリブルから生まれたものだった。高いボール・ポゼッションは、ここまでのところ得点力に直結していない。6試合で7得点という数字が、すべてを物語っている。
だが、それでもスペインは決勝に進出することができた。その最大の要因が高いボール・ポゼッションにあるのもまた事実である。ボールを保持している限り、相手が攻撃してくることはない。決して多くの決定機を生み出しているとはいえない今大会のスペインだが、相手に与えた決定機の数はもっと少ない。6試合で失点2、決勝トーナメントに入ってからは3試合無失点という数字は、ボール・ポゼッションという概念が持つもう一つの側面を教えてくれる。
スペインは、美しいパス・サッカーによって勝ち進んできたのではない。相手の攻撃時間を減らすことによって接戦を制してきた。ボール・ポゼッションには、二重の効能がある、チームがスランプに陥っても、運だけに頼らなくてもいいのだと教えてくれる。
日本が目指すべき道でもある、とわたしは思う。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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