[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】勢いを信じきれなかったドイツ
ドイツが戦ったのは、2年前の衝撃だった。点差以上の内容差で敗れた欧州選手権の決勝。スペインは強い。まともにぶつかって勝てる相手ではない。そう考えた彼らは、自ら勢いを捨てた。主導権を握って攻めるという選択肢を放棄し、自陣で耐えるサッカーを選択した。
スペインが戦ったのは、今大会の印象だった。ドイツは2年前とは違う。うかつに飛び込めば痛い目にあう。そう考えた彼らは、巣に立てこもった蜂(はち)の群れに、あえて手を突っ込もうとはしなかった。
それが、前半の45分間だった。
後半に入っても、ドイツの考えは変わらなかった。だが、スペインは違った。45分間を戦ったことで、相手が2年前よりは強くなっていることを実感しつつも、持っている針が、自分たちを一撃で殺すほどではないことを見抜いたのだろう。わずかではあったが、彼らは重心を攻めに傾けた。
それが、後半の45分間だった。
W杯の準決勝ともなれば、対戦相手を研究しないチームなどいない。相手の長所はどこか。どうすれば弱点を露呈させられるのか。徹底した分析は、勝利をつかむための大きな武器となる。だが、この日のドイツに関しては、数学的な要素にとらわれすぎてしまったのが敗因となった。
勢いという、データで表すことのできない不確定要素を自ら無視してしまったことが。
超一流の監督には、2つの才能が求められる。怜悧(れい り )な分析能力と、博徒としての才である。レーブ監督が分析の大家であることはよく知られている。今大会のドイツが破竹の勢いで勝ち進んでこられたのも、彼の手腕によるところが大きかった。だが、分析の大家であるがゆえに、彼は数々のデータが示す“スペインの方が実力的には上”という結論から逃げられなかった。偉大なギャンブラーであれば身を委ねることができる、勢いという不確定要素を信じきれなかった。
2年前の欧州選手権決勝に比べ、試合内容が拮抗(きっこう)していたのは事実である。レーブ監督の選択が間違っていたとは言い切れない。ただ、よほどの幸運に恵まれない限り、ドイツが勝つチャンスはPK戦しかなかった。そして、恐ろしく守備的なサッカーに走ったドイツが勝利を収めるようなことがあれば、今大会の印象はずいぶんと陰鬱(いんうつ)なものになってしまっていただろう。スペインの勝利によって、W杯は救われた。
まだダイレクトパスは少ない。バルセロナではありえないほどボールを奪われたイニエスタの調子も気になる。ただ、スペインの圧倒的なボール・ポゼッションは、相手に攻撃の機会を与えないという点で十分な効果を発揮している。
黄金のカップは、ついにピレネー山脈を越えようとしている。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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