[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】退屈なオランダの不思議な勝ち上がり
欧州勢にとってのジンクスが、南米勢にとっての神話が、ついに崩れた。南半球で行われたW杯は、史上初めて、欧州の王者を生み出すことになった。古くからのファンの中には、天動説が否定されたほどの衝撃を受けている人もいることだろう。W杯は、新たな次元へと突入した。
それにしても、オランダは不思議なチームである。今大会の彼らは、ただの1度も美しい試合をみせてくれてはいない。世界中を驚かせた74年大会はもちろんのこと、90年の西ドイツ戦、94年、98年のブラジル戦など、敗れてなお鮮烈な印象を残してきた国だというのに、今大会に限っては、冴(さ)えない試合の連続である。英国のメディアから“トータル・フットボール”をもじって“トーナメント・フットボール”と揶揄(や ゆ)されたのも、当然と言えば当然である。
ただ、退屈の原因をファンマルバイク監督の采配のみに求めるのは、いささか気の毒な気がする。ブラジル戦、ウルグアイ戦と押し込まれる時間帯が長かったのは、オランダが守備的だったからではなく、相手の動きが優(まさ)っていたからだった。前線のスナイダーが決定力を発揮している一方で、中盤以降の選手の動きは、ほぼすべての試合を通じて鈍い。ゆえに、パスが回らない。ゆえに、ルーズボールを拾われる。ゆえに、劣勢を強いられる。
ドイツとスペイン、どちらのチームが勝ち上がってきても、決勝でのオランダにとっては格上の相手となる。初優勝を狙う彼らにアドバンテージがあるとしたら、相手よりも1日多く身体を休められるということか。1次リーグで体力を温存したロッベン以外の選手にとって、これは無視できない要因だ。
惜しくも60年ぶりの優勝には届かなかったウルグアイだが、ロスタイムに見せた怒濤( ど とう)の猛攻は見事だった。ベンチにも実力者が控えるオランダと違い、先発メンバー以外の切り札を持たないチームだったにも関(かか)わらず、気迫だけで相手を圧倒したその姿は、長く語り継がれていくことだろう。伝説の英雄、フランチェスコリでさえできなかったことを、フォルランたちはやってのけた。
なぜオランダは勝ち上がってきたのか。納得のいく説明をわたしはすることができない。ただ、クライフの代名詞であり、サッカーの世界ではポジティブな言葉として使われる“フライング・ダッチマン”は、そもそも喜望峰付近で消息を絶ったオランダの幽霊船を表す言葉である。理屈では説明できない事象がこの世には存在することを、幽霊船の末裔(まつえい)たちは、先祖たちが消えた喜望峰、すなわちケープタウンで実証したということかもしれない。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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