[スポーツライター] 金子 達仁
- コメント(1)
- 2010年7月5日
【スポーツニッポン】ギャンの涙を世界は忘れない
前半の戦いを終えたオランダの選手は、壁に投げつけられる卵のような気分だったに違いない。ぶつかっても、ぶつかっても、崩れる気配はまるでない。ビハインドが1点で収まったことだけが、彼らにとっての救いだった。
まさか、壁が自らひび割れていこうとは。
理解できないのは、西村主審に対するブラジル人たちの反応である。リードしているのに、そして必ずしも不利益なジャッジを被ったわけでもないのに、彼らは異様なほどにピリピリしていた。わたしの目には、この日の西村主審のジャッジはいたって公平なものに映ったが、ロビーニョやドゥンガはまるで違う印象を持っているようだった。
ドゥンガの先入観が、選手たちを感情的にしたのではないか。
彼は日本を知っている。審判のレベルがいまよりも低かったころの日本を知っている。日本の審判=下手という先入観が、被害妄想をかきたて、それが選手たちに伝播(でんぱ)したのではないか。
前半のサッカーを続けていれば、オランダはなにもできなかった。にもかかわらず、ブラジルは勝手に憤慨し、リズムを失っていった。運もなかった。日本代表の監督にあったものが、ドゥンガにはなかった。選手としてもそうだったが、最初のW杯は、彼にとって鬼門であるらしい。
ただ、磨き上げた守りでさえ、時にはミスを犯すという現実を、ドゥンガはいかにして受け止めるのだろう。マラドーナにしてやられた90年W杯の経験は、彼を徹底した勝利至上主義者に変えたが、勝利にこだわった末に喫した今回の敗北は、彼をどう変えるのだろう。ブラジル史上最高の守備網を作りあげた男の今後に注目したい。
もう一つの準々決勝は、ドラマだった。日本対パラグアイを報じる際に「完全燃焼」だの「感動」だのというフレーズを使ってしまった人たちが、いかにしてこの試合を表現するのか心配になってしまうほどに感動的な試合だった。
ガーナは素晴らしかった。決勝ゴールになるはずだったPKをバーにぶつけ、それでもPK戦ではきっちりと決めたギャンの涙を、世界は忘れないだろう。ウルグアイはしたたかだった。退場を覚悟でハンドを犯し、涙ながらに会場を去ろうとしていたスアレスの、PKがバーを叩いた直後にみせたガッツポーズは、今大会における印象的な場面の一つとして、長く伝えられていくに違いない。
ガーナを支える気持ちを、ブブゼラではなく歓声とブーイングで表した南アフリカの観客も素晴らしかった。今大会で初めて、スタンドとピッチが一体になって名勝負を生み出した。忘れえぬ一戦が、アフリカ大陸に刻まれた。
コメント(1)
- きゃぶ2010年7月5日 10:44 PM
「毅然」
西村さんに限らず、国際試合でジャッジする日本人レフェリーたちの立居振る舞いに、この形容詞がよく当てはまるような気がするのはなぜなんでしょうか。
どこに出しても恥ずかしくないレフェリー。
願わくば、どこに出しても恥ずかしくない日本人プレーヤーたちも、もっと大勢出てきますように。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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