[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】孤立していたメッシに戻りつつある
因果は巡るということか。アンリのハンドを見逃してもらったことにほくそえんでいたフランス人は、ウルグアイ人がペナルティーエリア内で犯したハンドが見逃されたことに抗議できなかった。イングランドは、44年前にハーストが作ったツケを、ランパードが押しつけられる形となった。ならば、いつの日かメキシコ人が「これでおあいこだ」と明らかなオフサイドだったテベスのゴールを引き合いに出す日も来ることだろう。
それにしても、ドイツは強かった。バラックという精神的支柱を欠いた彼らが、どれだけ“魂”を見せてくれるかにわたしは注目していたのだが、精神力などという不確かなものに頼らなくてもいいだけの武器を、南アフリカでのドイツは持っていた。偉大な先達さえ持ちえなかった強烈な武器、カウンターである。
精密で重厚で。従来のドイツのサッカーは、彼らの国が作り出す製品イメージそのものだった。もちろん、その伝統は今大会にも受け継がれているが、イングランド戦に見せたカウンターには、フェラーリのような官能があった。見るものをうっとりとさせる美しさと速さ。誤審がなければカウンターが効果を発揮する場面は減っていただろうが、かといってドイツが負けていたとは考えにくい。20世紀後半から斜陽を囁(ささや)かれてきた大国は、新たな魅力とともに完全に蘇(よみがえ)った。
一方、大会序盤は強烈な光を放ってきたアルゼンチンには、いささかの陰りが出てきている。ギリシャ戦でエゴイスティックなプレーが目立ったメッシは、南米予選でのメッシ、奮闘はしても孤立していたメッシに戻りつつある。チーム自体も、ランパードのゴールを見逃してもらったドイツとは比べ物にならないぐらい、誤審に助けられた感があるのは否めない。
ただ、負けにくさは依然として健在だ。彼らがここまでに喫した2失点は、いずれもデミチェリスのミスによるものだが、原因は明らかな気の緩みだった。ドイツの強さが際立ち始めたいま、バイエルンでプレーする彼が来る準々決勝でこれまでのようなプレーをするとは思えない。かつて城彰二のチームメイトだったエインセは、伝説的なDF、ダニエル・パサレラの気配を身にまといつつある。守備の固さは、天下一品だ。
82年のW杯スペイン大会で得点王となったロッシは、4試合を終えた段階では無得点だった。アルゼンチンが、メッシが同じように輝きを取り戻すのか、ドイツが勢いそのままに突っ走るのか。7月3日の準々決勝は、事実上の決勝戦となるかもしれない。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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