[スポーツライター] 金子 達仁

  • 2010年6月25日

【スポーツニッポン】対岸の火事ではない北朝鮮の惨劇

 信念は岩をも穿(うが)つことがある。ブラジル戦での北朝鮮を見てそう思った。ローマやミラノの空港に“腐ったトマト発射装置”を準備させたであろうニュージーランドの戦いからも同じことを思った。

 だが、当然のことながら、信念が常に岩を穿つわけではない。常に岩を穿つためには、力がいる。道具がいる。知恵もいる。たいていの場合、力は、道具は、知恵は、信念をあっさりとはね返す。

 ブラジルを苦しめた北朝鮮の信念は、ポルトガルを相手にしても揺らいではいなかった。むしろ、より堅固なものになっていた。ただ、雨で濡れたピッチは、歴然と存在していた両チームの技術レベルの差を、強烈に際立たせる結果となった。ワンタッチで急所を衝(つ)くことができたポルトガルと、コントロールに四苦八苦した北朝鮮。パススピードの速さもまるで違っていた。もはや、信念で埋めることのできる差ではなかった。

 対岸の火事ではない。

 カメルーンに対する日本の勝利は、技術の勝利ではなかった。勝利への執念という、極めて不確かな要素に、普通ではありえない幸運が重なったがゆえに生まれた勝利だった。そこに酔ってしまえば、台風が中国からの侵略者を撃退してくれたのだから、英米を相手にしても神風が吹くはずだと考えたのと同じ愚を犯すことにもなる。

 北朝鮮は、明らかにGKのレベルが低かった。番狂わせを起こす上では必要不可欠な守護神の力を欠いていた。最終ラインから中盤にあてるパスの精度も低かった。マークの受け渡しは、哀れなぐらいに稚拙だった。0―7という歴史的な惨敗を、第三者が冷笑するのは簡単である。

 だが、当事者が自分たちの弱点を自覚しない限り、問題の解決はない。不運だった、とか、グラウンド状態が違えば、といったエクスキューズや自己憐憫(れんびん)を排除し、残酷な現実に目を向けなければならない。

 北朝鮮にそれができるか。日本にも、それができるか。

 オランダ戦の健闘によって、早くも日本にはサッカー協会が組んだ今回のW杯キャンペーンすべてを肯定するムードが生まれている。北朝鮮はともかく、少なくとも日本は、先のない道に足を踏み入れつつある。

 北朝鮮を襲った惨劇は、日本にも起こりうる惨劇だった。力も、道具も、知恵も、まだ日本は相手を凌駕(りょうが)していない。デンマークに勝とうが負けようが、その事実だけは忘れてはならない。

[スポーツライター] 金子 達仁



コメントなし

コメントを投稿


書籍紹介

負けない自分になるための32のリーダーの習慣
澤 穂希 /幻冬舎
目標は「言葉」にすれば、必ず実現する。ブレずに強い心で戦い続けるための習慣。成功を引き寄せる、「有言実行」のメンタル術。

僕は自分が見たことしか信じない
内田 篤人/幻冬舎
彼はその端正な外見だけではない。男らしい一面をもっている。誰よりも優しい心を持っている。そして、だれよりもサッカーに対して真摯だ。

不器用なもんで。
金子 達仁 /扶桑社
『渡り鳥シリーズ』、『仁義なき戦い』など映画に出演し、『昔の名前で出ています』、『熱き心に』といった数々のヒット曲を生んできた小林旭。金子達仁が鮮やかに描き出す一冊。

サッカーの見方は1日で変えられる
木崎 伸也/東洋経済新報社
ボールを追うのは3流、フォーメーションを論じるのは2流。 では、「本当のプロ」はどこを見ているのか?今日からできる「プロの観戦術」を初公開!

バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー
オスカル・P・カノ・モレノ /カンゼン
 “美学”と“効率”が両立されている バルセロナのサッカーの本質に迫る一冊

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
長谷部誠/幻冬舎
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、 常に力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』

タイアップ

オーダーメイドシリコンリストバンド BANDIA
スポーツビジネスオンライン
soccerking