[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】相手の輝きを利用するブラジルでいいのか
82年ブラジル代表のセンターバックだったオスカールから聞いたことがある。
「右サイドバックが攻め上がっているのに、左サイドバックも平気で攻撃参加する。確かにあのときのブラジル代表は魅力的ではあったけれど、セオリーを無視する選手が多すぎた。だからイタリアにやられたんだ」
というオスカールの言葉を告げると、憤慨したのがキャプテンだったドトール、いささか多めにお酒を召されていたソクラテスだった。
「セオリーを無視?それこそがブラジルだろうに。そういうことを言っているから、オスカールはチームの中で嫌われたんだ」
コートジボワールを3―1で下したブラジルを見て、オスカールは大いに満足しているだろう。守備は、スペクタクルを求める人間を退屈させるほどに強かった。“ドトール”ソクラテスは、大好きなワインを呑(の)みながら毒舌を吐いていることだろう。規律は、ブラジル代表史上空前のレベルで維持されていた。
ドゥンガは、むろんオスカールの側に立つタイプの人間である。
「野球では、ボールを打った人間は必ず一塁側に走る。なのに、なぜ日本人はサッカーになると、決まりごとを持とうとしないのか」
W杯フランス大会の最終予選直前、彼は迷走する日本代表にそう苦言を呈したことがある。ペレもジーコもいないチームが、ひらめきにばかり頼っていてどうするのか。あのときのドゥンガは、酔っぱらったソクラテス以上に憤慨していた。
わたしは、困惑している。
82年のブラジルについての考察であれば、ソクラテスの側につく。日本についてのドゥンガの言葉は、いまも通用する真理だと思っている。
だが、南アフリカでのブラジルがこれでいいのか。ペレはいない。ジーコもいない。しかし、カカーはいるブラジルが、これでいいのか。相手を全面的にたたき潰(つぶ)すのではなく、いいところを消しながら抜け目なくスキをつくブラジルでいいのか。
このブラジルは、月である。
相手がどこであれ、圧倒的な熱量で焼き尽くしてしまう太陽のブラジルではない。輝く相手がいれば、その光を受けてきらめく月のブラジルである。ブラジルを倒すためにそうならざるをえなかった、イタリアやアルゼンチンのサッカーである。
ブラジルが、それでいいのか。
わたしには、まだわからない。今大会の太陽、スペインやアルゼンチンと対決するまで、答えは保留しておくことにする。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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