[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】W杯で本田さらなる成長チャンス
旅行者にはわからない、住んでいる者にしかわからない話、書けない物語がある。アルゼンチン在住のライター、藤坂ガルシア千鶴さんの書かれた「マラドーナ・新たなる闘い」(河出書房新社)はまさしくそうした類(たぐい)の本だった。
同書によれば、マラドーナ監督はいまのアルゼンチン代表を「マスチェラーノと10人の選手たち」と表現しているのだという。決して派手ではない、しかし常に安定した力を発揮するリバプール所属のMFに、自らも左腕に腕章を巻いた伝説の男は全幅の信頼を寄せている。偉大なる指揮官であるかどうかはともかくとして、監督から信頼されることが選手にとってどれほど大きな意味を持っているかをマラドーナは知っている。
我らが岡田監督も、ここにきて本田に対する期待を隠そうとしなくなってきた。ロシアに行って本田は変わった?得点力があがった?個人的には、彼が変わったのは北京五輪後のフェンロ2シーズン目であり、ロシア・リーグ10試合で2得点しかあげられなかった選手にW杯でのゴールラッシュを期待するのは酷にもほどがあると思うのだが、本田の将来を考えれば、期待をかけられるのは決して悪いことではない。
なぜ彼はフェンロ2シーズン目で突如としてゴールに目覚めたのか。要因の一つとしてあげられるのは北京での苦い経験である。大会後のバッシングによって、それまでどちらかといえば芸術的なアシストに喜びを見いだすタイプだった本田は、ゴールという直接的な結果に執着するようになった。言ってみれば、外圧が本田を変えたのである。
おそらく、南アフリカでの日本は相当に苦しい戦いを余儀なくされる。北京で日本五輪代表が直面したよりも、はるかに厳しい戦いを余儀なくされる。もちろん、本田は結果を出すつもりだろうが、率直にいって、その可能性はそれほど高いものではない。
だが、それでもいいとわたしは思う。
W杯でゴールという結果を出せば、本田はより大きく成長することができる。それは間違いない。では、結果を出せなかった時はどうなるか。
強烈な外圧が待っている。
本田が、また大きく変われるチャンスが訪れる。
今回が最後のW杯になるであろう多くの日本代表選手とは違い、南アフリカは本田にとって最初のW杯である。マラドーナにとってのスペイン大会と同じ、最初のW杯である。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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