[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】「強化」より「興行」が大事なのか
【日本0-3セルビア】セルビア人は笑いが止まるまい。代表チームと呼ぶのがおこがましい程度の顔ぶれで、監督はベンチにさえ入らず、それでいながら3―0の圧勝で、ビールや清涼飲料水といったお土産までもらえてしまった。W杯とはほぼ無縁のはずだった選手の中には、この試合をきっかけにチャンスをつかむ者が出てくるかもしれない。苦しい国情を笑い飛ばすために世界でも屈指のジョーク大好き民族になったとも言われるセルビア人のこと、試合後のロッカールームはさぞ明るかったことだろう。
もっとも、スタンドで試合を見守ったアンティッチ監督からすれば、いささか物足りなさの残る試合だったかもしれない。国外でプレーした経験の少ない今回のメンバーにとって、祖国を遠く離れた極東でのアウェーゲームは、敵地というものを知る恰好(かっこう)の場となるはずだった。ところが、自国の代表が0―3でボロ負けしているというのに、日本のファンは一向に殺気だってこない。0―1になっても、0―2になっても、0―0の時と同じリズムで同じ歌が流れ続ける。これでは、修羅場を潜(くぐ)ったことにはまるでならない。
結局のところ、この試合で最も満足したのは、興行に携わった人たちなのかもしれない。お客さんは満員だった。さぞかし入場料収益もあがったことだろう。このセルビアの顔ぶれでよくぞ入ってくれた。この試合内容でよくぞおとなしく帰ってくれた。わたしだったらほくそ笑みながら祝杯をあげている。
もし日本サッカー協会が本気で代表チームを強化したいと考えるのならば、なぜこの試合をベオグラードで行わなかったのだろう。セルビア・リーグでプレーしている選手が日本にこられるならば、Jリーグでプレーしている選手がセルビアに飛ぶことも日程的には可能だったはずである。殺気だつマラカナンでの経験は、ぬるま湯でのプレーになれた日本選手に、新鮮な驚きと刺激を与えてくれたに違いない。
だが、行われたのは長居だった。大切なのは強化ではなく、興行だった。代表チームが強くなることよりも、ゴールデンタイムに試合が中継されることの方が大事だった。
試合内容については……もう触れる気にもなれない。ひとつわかったこと。これで、日本代表は南アフリカに明確な目標を持たずに乗り込むことになる。岡田監督率いるチームが日本から持っていくのは「ベスト4」というお題目である。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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