スポーツ感動体験

  • 2010年6月11日

大人の成長

 コーナーを曲がるバイクレーサーの写真が2枚ある。
 1枚は左コーナーを曲がり、もう1枚は右コーナーを曲がっている。
 右に曲がる写真に比べると、左に曲がるレーサーの膝は地面に付かんばかりに接近している。

 石田さんがバイクに乗り始めたのは15年近く前、就職してからだった。

 就職したての頃の小さいバイクから、年々バイクのサイズも大きくなっていった。
 ところがバイクが大きくなってくると、一般道路では発揮できないパワーの存在が気になってくる。

 外見をカッコよくする程度で、機械的な改造をほどこすほどのこだわりはなかったが、どうせ走るのならば周囲に気兼ねすることなく走りたい。

 石田さんのバイクライフは、休日のレーシング場が中心になっていった。

 技術的に向上していくことが楽しく、上達すればするほど走ること自体が楽しくなっていく。
 石田さんはバイクショップや雑誌が主催する走行会にも参加するようになった。

 1月、千葉の袖ヶ浦フォレスト・レースウェイに、膝擦りに憧れるレーサーたちが集まった。

 膝擦りとは、コーナーを曲がるときに膝が路面に擦るか擦らないかというところまで車体を極端に傾けて走る、ライダー憧れの技術である。
 理論的な講習会を終え、レース場でバイクを走らせる。

 文字通り膝を擦るくらいに傾けなければ綺麗にコーナーを回ることはできないが、どこまで傾けても大丈夫なのかが分からず、転倒が恐ろしく、中途半端になりやすい。

 結局、自分の身体で、どこまで車体を傾けてもいいのかを理解するしかない。

 右に重心を移し左に重心を移して走り、撮影された連続写真を参考に、またレース場で同じことを繰り返す。

 少しずつ、身体の使い方がわかってくる。

 車体の傾きも大胆になり、膝と路面との距離が小さくなる。

 左に曲がるときに比べて、右がまだ上手くいかなかったが、それでも走行会が終わるころには新たな技術を身につけることができた喜びが、石田さんに満ちていた。


 結局のところバイクは乗っても乗らなくてもいいもの、と石田さんは言い切る。
 でもバイクには道具を使って上達する喜びがあり、その喜びは大人になってからでは得ることが難しい貴重なもの、とも付け加えた。

 だから石田さんは上達する喜びを求め、サーキット場でバイクを走らせている。
 まずは、左と同じように右コーナーでも膝擦りができるようになることが目標だ。

(小林浩宣=文)

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