スポーツ感動体験
背中の縦縞、6番
ヘルメットにはTとHをかけあわせたロゴが描かれている。
胸にはTigersの文字と6の番号が刺繍されている。
またがっているのはママチャリだ。
きっかけは会社の同僚から富士で行われるスーパーママチャリGPの出場をもちかけられたことだった。
レースと言ってもタイムや順位を競うために血眼になるわけじゃなく、和気あいあいと楽しむことを目的にしている大会だという。面白いことが大好きな中原さんたちの気持ちをさらに盛り上げたのは、仮装する参加者が沢山いる、という一言だった。
大会当日、中原さんのチームメイトは、ダース・ベイダーやスパイダーマンなどのコスプレで注目を集め、写真撮影に応じていた。
一方で中原さんには、小学生の頃から、負けている時も負けている時も応援してきたチームのファンであることをアピールすること以外の選択肢は考えられなかった。
縦縞のハッピを風になびかせる男が、勇ましくF1のコースへと飛び出す。
車もいない、歩行者もいない、背の高い建物もない、都内では得られない開放感が心地よい。
どこまでも際限なく加速していく下り坂の感覚も、公道では味わえないものだった。
ブレーキをかけずに加速に酔っているとハンドルがぶれてコントロールが利かなくなってきて、はじめてママチャリが出している規格外のスピードが実感される。
転倒する人もいる。
あくまでもレースなのだ。
パンフレットに書いてあった注意書きが思い出され、気が引き締まる。
最後のコーナー付近に、S字に曲がる上り坂が立ちはだかる。
体力と気力を使い果たし、ママチャリを降りて押している人達もいる。
内心、中原さんも降りたかった。
震える足でペダルを踏みつけるより、降りてしまいたかった。
けれど中原さんがまとうレプリカシャツには背番号6が縫いつけられていた。
40歳を過ぎて衰えることを知らぬ鉄人の名に恥じることはできない。
信奉する阪神タイガースのアニキ金本知憲の存在が、坂を登りきらせてくれた。
F1のコースで走るのは日常生活では味わえない開放感があり、できればまた走りたいと中原さんは思っているが、その前に3月の終わりに湯河原で行われるショートマラソンを走る予定になっている。
湯河原は奥様の実家で、毎年の恒例行事になっているからだ。
けれど、湯河原ではアニキを背負って走ることはできない。
奥様のご両親は、巨人ファンなのだ。
(小林浩宣=文)
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