スポーツ感動体験
夢の時間 ~出会いがくれたもの~
充実感と達成感。そして感謝。ゴールした瞬間、佐渡(さわたり)さんの胸の奥でそんな思いが大きく膨らんで、津波のように押し寄せた。
横を走る、チーム代表の大杖さんに「お疲れ」と声をかけられると目頭が熱くなった。
宝石店の店長を務める佐渡さんが自転車と出会ったのは2008年の秋。結びつけたのは大杖さんだった。
「最初は単なる付き合いのつもりでした」
ところがロードレース用の自転車に乗ってみると、体全体に浴びる風やスピード感が心地よく、遠くの空に吸い込まれていくような不思議な感覚に見舞われた。見慣れた景色はいつもより新鮮に映った。そして何より、忙しい日常を忘れることができた。
すっかり自転車の虜になった佐渡さんは、そのまま大杖さんのチームに入る。
7名から成る”宝塚ポスタル”は毎年8月に行われるシマノ鈴鹿ロードレースに参加している。2009年もエントリーし、佐渡さんは1時間サイクルマラソンの出場メンバーとなった。
「初レースが日本一大きい大会ですからね。しかも会場はF1も行われる鈴鹿サーキット。自転車歴1年も満たない自分がどれだけできるのかと思うと不安でした」
スタート地点では緊張のあまり足が震えだした。
「とにかく持てる力を全部出そう」
佐渡さんはそう言い聞かせてペダルをこぎ出した。隣には大杖さんがいた。
「あの人について行ければ」
目標を見つけた佐渡さんは離されないように集中しながら走り続けた。しかし8月の太陽がスタミナを奪っていく。
汗だくになりながら11周走ったところで規定の1時間が経過した。あとは今いる時点からゴールまで走れば終了となる。
「意地を見せたかったんです」
佐渡さんは歯を食いしばりながらゴールを目指しつつ、何と大杖さんを抜きにかかった。気づいた大杖さんも抜かせまいとスピードを上げる。
二人とも車体を左右に揺らしながらペダルをこぎ、抜きつ抜かれつのデットヒートを繰り広げた。
「最後は僕を勝たせてくれたんです」
大杖さんのスピードが落ち、佐渡さんが前に出たところでゴールイン。タイムは1時間2分14秒。最後の2分14秒は二人だけの時間だった。
「今、充実した日々を送れているのも自転車のおかげ。僕にとっては生きがいです」
大杖さんとの出会いで自転車にのめり込んだ佐渡さん。ゴール後、引き合わせた恩人に声をかけられた時、目頭が熱くなったのは自然の成り行きだった。
(滝沢康英=文)
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