[塾生]波多野詩菜
[トップリーグ]10番より、12番より
会場は全員トニー・ブラウンだった。スーパー14の最後の試合、カリスブルックの1万何千人の観客は、全員彼のマスクをつけて観戦した。そのくらい、NZで愛されていた選手だった。
トニー・ブラウンはいま、同じチームの同じポジションにいる。
1月31日のマイクロソフトカップ決勝戦、彼が出場停止から戻ってくると、「リトルブラウン」は、準決勝で着た10番のユニフォームを彼に渡した。代わりに今季親しんだ、12番を着た。
「決勝に関しては、何番でもいいんです」。
本心だった。直前には、今後極めていきたいポジションはスタンドオフ(SO)、と断言していたのだから。
マイクロカップ決勝――
それは、入江順和にSOもセンター(CTB)も関係なく、「何番でもいいんです」と心から言わせる試合だった。
今季は、ほとんどの試合をCTBとして出場した。CTBは、社会人になってから始めた。経験を積ませてくれと、会社に頭を下げてNZへ留学した年もあった。でもやっぱり、小学校2年生から1番長く続けてきた、SOが楽しい。「単純にボールが触れて、自分で動かせるのが、楽しい」。
トニー・ブラウンが出られない時、SOは入江にあてがわれる。入江は、「キック主体のところ、デフェンス面」を引き継ぐように意識する。「SOが変わるとチーム全体のリズムも変わる。でも、同じようなタイプの選手が入るなら、チームも上手くいく」と考えるからだ。「入江のプレーを見ていると、自分のプレーを思い出すし、イメージが重なる。入江は肉体的な当たりのところで強い、タフな選手だ」とトニー・ブラウンは言う。いつしか「リトルブラウン」という呼び名がついた。
入江は「リトルブラウン」と呼ばれることが、あまり好きではない。
では、トニー・ブラウンになくて入江順和にあるものを、と尋ねた。「自分のやりたいラグビーのイメージは、ランニングラグビーというか、SOが仕掛けてどんどん動いて崩していく、ちょっとした瞬間のスピードで相手DFを崩していくようなプレー」。遠慮がちな目線に笑みを浮かべつつ、「そこで上回りたいという思いがある」と言った。
飲料容器を人に見立てて芝生の上に並べたて、同じCTBの山内と何度も最終確認を繰り返し、金曜日、入江は最後の練習を終えた。この日も決勝戦は、「出られればいい」とだけ言った。それくらい、「どうしても欲しいタイトル」だった。
三洋は、負けた。
温厚な顔立ちに、勝負後の傷跡がなまなましく残る。
「悔しいというより、またかという。どうして勝てないのか、分からないです。個人的なところで言うと、アタックのコンタクトの部分でやられて、起点になれなかった。東芝のアタックの継続は、予想以上でした。アタックへの集中力、取るか取りきれないかの差が東芝との差でした」。
反省点ははっきりしていても、釈然としない思いがくすぶっているようだった。
日本選手権が始まる。入江はまた「勝てれば何でもいい」と言った。
「このレベルになってくると、ボールゲームっていうよりかは、格闘技。体のぶつかり合いのところで負けたくない」。
いずれは、三洋の10番になりたい。でも、とりあえずはチームが勝つことが最も重要なようだった。
12番でも、10番でも。
入江はまだ、模索している。
●プロフィール
波多野詩菜(はたの しいな)
1990年2月生まれ。慶應義塾大学文学部に在学中。慶應スポーツ新聞会サークルに所属し、主に大学サッカーの取材を中心に活動中。
タグ: スポーツライター登龍門 present by 「朝日日刊インサイト」, 日本一決定戦 —
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[塾生]波多野詩菜- shina_hatano
- 1990年2月生まれ。慶應義塾大学文学部に在学中。慶應スポーツ新聞会サークルに所属し、主に大学サッカーの取材を中心に活動中。
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