投稿記事
[第15回全日本フットサル選手権決勝]目論み プーマカップ2010
ボラにとって存在感をもう一度知らしめる試合…のはずだった。
アジウ監督のチーム構想。今季から選手登録枠が20人から14人に減少。この2つによって名古屋オーシャンズから戦力外となったボラは、2009シーズン前に湘南ベルマーレへと移った。
常勝チームから下位チームへの”都落ち”のような移籍は、観客を魅了できる希有なプレーヤーのプライドをズタズタに引き裂いた。
湘南ベルマーレとは、Jリーグではお馴染みなので聞こえはいいが、フットサルではまったく別。Fリーグ元年の2007シーズンは8チーム中5位、2008シーズンは7位と、くすぶっているチームなのだ。
かくして平塚へとやって来た傷心のボラだったが、湘南ベルマーレも黙って見ているほど愚かではなかった。モチベーションを上げる策をきっちりと用意していた。
移籍してきたばかりのブラジル人をキャプテンにする。
いきなりチームの心臓部を任されたとなれば、ボラ自身も発憤しないわけにはいかない。背番号を10から1へと変更し、屈辱を胸にしまい込んで2009シーズンを向かえた。
開幕戦こそ無得点だったが、その後、相手をはじき飛ばすようなフィジカルの強さと卓越した個人技で得点を積み重ね、終わってみれば過去最多の29得点で得点王に輝いた。
だが、最も重要な部分である”チームの順位を上げること”はできなかった。10チームに増えた今シーズンも8位という定(低)位置で湘南ベルマーレはFリーグを終えた。
個人としては最高の出来だったが、主将としてはチーム躍進の起爆剤にはなれなかった。
そこで、プーマカップ2010 第15回全日本フットサル選手権である。
“フットサルの天皇杯”に位置づけられるシーズン最後のビッグタイトル。目に見える結果として、ボラは喉から手が出るほどに欲していた。
しかも全日本フットサル選手権は個人的にも因縁深い。名古屋オーシャンズの一員として、昨年、一昨年と2年連続で相手チームの胴上げを目の当たりにしている。特に昨年は、地域リーグから勝ち上がってきたフウガ目黒(現・フウガ東京)に4-6で優勝をさらわれるという汚点まで残してしまった。
キャプテンの責任として、さらには自身のリベンジのため、ボラは全日本フットサル選手権の決勝戦に臨んだ。相手はシュライカー大阪。Fリーグ3位という好成績を残した強豪である。
試合はシュライカー大阪がボールを支配し、自陣に引いた湘南ベルマーレがカウンターを狙うという形で始まった。湘南ベルマーレがボールを奪うと、サイドに開いたボラへロングパスを出し、個人技でシュートまで持ち込む。
何度か得点をにおわせるシーンを作るが、シュライカー大阪のゴレイロ、イゴールがその前に立ちはだかる。
シュート体勢に入ったとき、186㎝の長身が両手を広げて前に出るとシュートコースがほぼ無くなってしまう。それでも強引に狙うから枠に飛ばない。
今シーズンからイゴールが加入したシュライカー大阪はFリーグ10チーム中、最少失点50を誇る堅守が持ち味。その屋台骨となる彼を突破するのは容易ではなかった。
とはいえ、ボラにとっては相性が悪い相手ではない。対戦した3試合中すべてで得点を決め、都合4回ネットを揺らしている(勝敗は湘南ベルマーレの1勝2敗)。
両チームとも欲しかった先制点は、シュライカー大阪が取った。正面やや右からのフリーキックを直接決めたのだ。これで湘南ベルマーレが前に出なくてはいけない展開となるが、総合力で勝るシュライカー大阪がどんどん押し込むようになる。
後半、湘南ベルマーレはボラがピヴォの位置に入り、ボールをキープしたら相手を引きつけておいてフリーの味方にパスを出す作戦にチェンジした。するとサイド攻撃が光り出し、組織として決定的なシーンを作り出すようになる。
そして10分過ぎ、第2PK付近でボラがバックチャージを受けて、湘南ベルマーレがフリーキックを得る。ほぼ正面。キッカーはもちろんボラ。
ここでシュライカー大阪が奇策に出る。ペナルティエリアの内側に3枚の壁を作るわけだが、その一枚、ちょうどボラから正面の位置にイゴールが立ったのだ。ゴレイロが壁に入るとなると、両ポストにフィールドプレイヤーはいるものの、ゴールは空き状態である。
しかし、壁の中に一人だけ手が使える者がいるとなれば、相手に無言のプレッシャーをかけることができる。
シュライカー大阪の奇策とは、ボラに対して挑発とプレッシャーを同時にかけることだった。
ボラが助走に入ると、イゴールはゴールを体の陰に隠すため、両手を広げながらジリジリとペナルティエリアのライン上まで前進する。だが、これだけでは守備としてはまだ未完成である。股の間が空いているのだ。
ボラがボールにインパクトを与える瞬間、イゴールは股間を抜かれないように、腰をかがめながら太ももを閉じた。
ボラが右足を振り抜く。ボールは弾丸ライナーで体勢を低くしたイゴールの顔面を直撃し、高く舞い上がってゴールラインを割った。
正面に強いシュートを蹴ったボラの選択は、シュライカー大阪の術中に見事にはまった証拠でもあった。
12分過ぎ、今度はシュライカー大阪が右サイドでフリーキックを得る。するとキッカーが中央へ不用意な横パスを出す。ボラはそこを見逃さずにパスカット。そのままドリブルで一気に駆け上がり、ゴレイロと1対1となる。イゴールは腰を落としてペナルティエリアのギリギリまでポジションを上げる。ボラはステップを踏みながら重心を左へ移し、右足でファーサイドを狙う体勢を取った。
そしてシュート…、ではなく、足裏を使ったキックフェイントでイゴールを抜きにかかった。しかし読まれていた。イゴールはその動きについていき、両手を頭上に上げながら横っ飛びをする。そうなるとボラはゴレイロの脇の下を狙うしかない。左足でシュートを放つ。しかし利き足ではないため、ボールを正確にミートできず、ほんの少しだけ浮いてしまう。イゴールはそれを手に当ててはじいた。
2度目の対決においても軍配はイゴールに上がった。
ゴレイロの神がかりなセーブによって、流れは完全にシュライカー大阪のものとなった。
1分後、2点目を追加する。15分にはパワープレーに出た湘南ベルマーレのすきを突いて、イゴールがロングシュートを決めてしまう。18分にもダメ押しを決めて4-0。
シュライカー大阪が初優勝を飾った。
終了の笛と同時に、ボラは信じられないと言わんばかりに首を横に振った。ボラを完封したイゴールはチームメイトと喜びを爆発させる。
3年連続相手チームの胴上げに立ち会うという不名誉な記録がボラのキャリアに加わると同時に、移籍1年目でチームにタイトルをもたらすという夢も泡と消えた。
そして何より、自分を見限ったチームへ復讐できなかった。
名古屋オーシャンズがまだ手にしたことのない全日本フットサル選手権を先に獲得することこそ、この大会におけるボラの野望だったはずである。日程がAFCフットサルクラブ選手権と重なっていなかったら、Fリーグ王者が死に物狂いで獲りにいっていたであろうことは間違いない。だからこそ、移籍した最初の年に是が非でも取りたかったのだ。喉から手が出るほど欲していたのだ。
これで、放出した相手に「ざまあ見ろ」が言えなくなった。
Fリーグでは古巣相手に3ゴールを叩き込んでいるが、これだけでは不十分なのである。
それにしてもFリーグ得点王とMVPの対決は、迫力だけでなく、知的ゲームのようで見応えがあった。
背番号1の目論みはもう一人の背番号1によってもろくも崩れ去るという皮肉がついた。
(滝沢康英=文)
タグ: 日本一決定戦 —
コメントなし
コメントを投稿
書籍紹介
目標は「言葉」にすれば、必ず実現する。ブレずに強い心で戦い続けるための習慣。成功を引き寄せる、「有言実行」のメンタル術。
彼はその端正な外見だけではない。男らしい一面をもっている。誰よりも優しい心を持っている。そして、だれよりもサッカーに対して真摯だ。
『渡り鳥シリーズ』、『仁義なき戦い』など映画に出演し、『昔の名前で出ています』、『熱き心に』といった数々のヒット曲を生んできた小林旭。金子達仁が鮮やかに描き出す一冊。
ボールを追うのは3流、フォーメーションを論じるのは2流。 では、「本当のプロ」はどこを見ているのか?今日からできる「プロの観戦術」を初公開!
“美学”と“効率”が両立されている バルセロナのサッカーの本質に迫る一冊
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、 常に力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』











