[塾生]西本匡吾
[サントリーカップ]誇り。
帰りは、行きより荷物が増えた。でも、全然重くはなかった。
九州代表・大分県の市浜デンジャラスは4月から明確な目標を掲げている。「ぶっちぎりで全国大会優勝」である。
タグラグビーは、4チームから成るグループリーグから始まる。そこで1位から4位の順位を決定し、順位ごとの決勝トーナメントへと駒を進める。無論、全国大会で優勝するためには、グループリーグで1位になることは必須であった。
チームのエースである加藤弘樹君は「全く緊張しないで」大会に臨んでいた。身長は160センチ程で、チームで最も大きな小学校6年生は、いつもチームの中心である。
去年も全国大会に出場した。結果は3位だった。誰よりも、去年の悔しさを知っている少年だった。
「練習はあんまり好きじゃないかな。でも、試合は好きだよ。面白いから。」
市浜デンジャラスは2月27日、グループリーグの第二戦で、大きな山場を迎える。
相手は、リトルベアーズという横浜のチームであった。
秩父宮ラグビー場には、ポツポツと雨が落とされていた。午前中から降り注いでいる雨により、グラウンドの芝は緑には程遠い色した濁りを見せている。加藤君は笑顔でグラウンドに入った。
いつものように円陣を組んだ。
優勝のためには、負けられなかった。
膝には、泥がべっとりついた。髪の毛は、雨と汗でビショビショになった。
気づいたら0-4になっていた。
全力で走った。
なんとか1点を返した。
でも、最後は1-6だった。
「マジかよ。」
試合終了の笛が鳴るのと同時に、加藤君は悔しさを口から吐き出した。そして、迷うことなくその場に倒れ込んだ。グラウンドの上に、大の字になって空を見つめる。顔には雨が降りかかる。まさかの敗戦だった。
起き上がったら、周りの仲間はみんな顔をぐしゃぐしゃにしていた。涙が邪魔をして、最後の挨拶すらできない仲間もいる。涙が出そうになった。でも、必死に堪えた。
「俺、空気読むの苦手やねん。」
敗戦の空気が蔓延していた市浜デンジャラスのベンチで、加藤君は歪んだ声を出した。泣くのは我慢した。小さな男の、大きな意地だった。
試合後、屋根があるスタンドで、仲間とともに着替えを始めた。4年生の上田悠斗君は、加藤君の泥で汚れた膝を見て、からかった。
「キッタネー膝だな。」
加藤君は誇らしげに、返す。
「でもな、これは頑張ったあかしや。」
「そうやな。」
二人は同時に吹きだした。白い歯を見せ、笑い合った。
いつの間にか、周りも笑顔になっていた。
悔しかった。でも、タグラグビーは楽しかった。
市浜デンジャラスは、グループリーグを3位で終える。その後のトーナメントで、見事優勝を果たした。もちろん、目標とは程遠い。
最後の試合のあと、監督の長賢司さんは堂々していた。
「確かに優勝はできませんでした。でも、僕らは誇りを持って、大分に帰りますよ。」
優勝はリトルベアーズだった。優勝の瞬間を、加藤君は小さな背中を丸くさせて、グラウンドの横で眺めていた。目は少しだけ、細くなっていた。
「俺らはくじ運が悪いな。ほんとに。まぁでも、全国で2番ってとこかな。」
声を急に弾ませた。後悔はなかった。全ての試合が、全力だったから。
3月1日、彼らは大分に帰る。
持ってきた荷物と、大きな大きな誇りをしょって。
タグ: スポーツライター登龍門 present by 「朝日日刊インサイト」, 日本一決定戦 —
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[塾生]西本匡吾- kyougo_nishimoto
- 1987年9月生まれ。明治大学法学部在学。現在4年生ながら、新聞社から内定をもらうため就職浪人を決意する。金子塾入塾後は「とにかく現場に出ること」を意識し、スポーツの種類にとらわれず取材を行っている。将来はバスケットボールについて執筆し、日本バスケの発展に貢献したいと考えている。
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