[塾生]西本匡吾

  • 2010年3月5日

[サントリーカップ]誇り。

 帰りは、行きより荷物が増えた。でも、全然重くはなかった。

 九州代表・大分県の市浜デンジャラスは4月から明確な目標を掲げている。「ぶっちぎりで全国大会優勝」である。
 タグラグビーは、4チームから成るグループリーグから始まる。そこで1位から4位の順位を決定し、順位ごとの決勝トーナメントへと駒を進める。無論、全国大会で優勝するためには、グループリーグで1位になることは必須であった。
 
 チームのエースである加藤弘樹君は「全く緊張しないで」大会に臨んでいた。身長は160センチ程で、チームで最も大きな小学校6年生は、いつもチームの中心である。
 去年も全国大会に出場した。結果は3位だった。誰よりも、去年の悔しさを知っている少年だった。

「練習はあんまり好きじゃないかな。でも、試合は好きだよ。面白いから。」

 市浜デンジャラスは2月27日、グループリーグの第二戦で、大きな山場を迎える。
 相手は、リトルベアーズという横浜のチームであった。

 
 
 秩父宮ラグビー場には、ポツポツと雨が落とされていた。午前中から降り注いでいる雨により、グラウンドの芝は緑には程遠い色した濁りを見せている。加藤君は笑顔でグラウンドに入った。
 
 いつものように円陣を組んだ。
 優勝のためには、負けられなかった。
 膝には、泥がべっとりついた。髪の毛は、雨と汗でビショビショになった。
 気づいたら0-4になっていた。
 全力で走った。 
 なんとか1点を返した。
 でも、最後は1-6だった。

「マジかよ。」
 試合終了の笛が鳴るのと同時に、加藤君は悔しさを口から吐き出した。そして、迷うことなくその場に倒れ込んだ。グラウンドの上に、大の字になって空を見つめる。顔には雨が降りかかる。まさかの敗戦だった。

 起き上がったら、周りの仲間はみんな顔をぐしゃぐしゃにしていた。涙が邪魔をして、最後の挨拶すらできない仲間もいる。涙が出そうになった。でも、必死に堪えた。

「俺、空気読むの苦手やねん。」

 敗戦の空気が蔓延していた市浜デンジャラスのベンチで、加藤君は歪んだ声を出した。泣くのは我慢した。小さな男の、大きな意地だった。

 試合後、屋根があるスタンドで、仲間とともに着替えを始めた。4年生の上田悠斗君は、加藤君の泥で汚れた膝を見て、からかった。

「キッタネー膝だな。」

 加藤君は誇らしげに、返す。

「でもな、これは頑張ったあかしや。」

「そうやな。」

 二人は同時に吹きだした。白い歯を見せ、笑い合った。
 いつの間にか、周りも笑顔になっていた。 

 悔しかった。でも、タグラグビーは楽しかった。



 
 市浜デンジャラスは、グループリーグを3位で終える。その後のトーナメントで、見事優勝を果たした。もちろん、目標とは程遠い。
 最後の試合のあと、監督の長賢司さんは堂々していた。

「確かに優勝はできませんでした。でも、僕らは誇りを持って、大分に帰りますよ。」

 優勝はリトルベアーズだった。優勝の瞬間を、加藤君は小さな背中を丸くさせて、グラウンドの横で眺めていた。目は少しだけ、細くなっていた。

「俺らはくじ運が悪いな。ほんとに。まぁでも、全国で2番ってとこかな。」
 
 声を急に弾ませた。後悔はなかった。全ての試合が、全力だったから。

 3月1日、彼らは大分に帰る。
 持ってきた荷物と、大きな大きな誇りをしょって。

[塾生]西本匡吾

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