[塾生]西本匡吾
[WJBLプレーオフ・ファイナル]辛さを超えて
今シーズンから左腕にサポーターをしている。プレーオフが始まる前には、英語で短く文章を入れた。最後の文字は「ONE」ではない。大神雄子は断固たる決意を腕に刻み、試合に挑んでいた。
大神雄子は、JOMOサンフラワーズに所属しているバスケットボール選手である。ポジションはポイントガードで、抜群のリーダーシップと卓越したゲームメイク能力を持つ。一昨年には、女子バスケ選手として初めてプロ契約を交わしている。JOMOでは、唯一と言っていい、替えがきかない選手である。
2月28日、代々木第二体育館でWJBLプレーオフ・ファイナル第3戦が行われた。
JOMOサンフラワーズとトヨタ自動車アンテロープスの戦いとなったファイナルは、ここまでJOMOが2勝している。ファイナルで先に3勝したチームがシーズン優勝となる。あと1勝で、JOMOの優勝が決まる状況だった。
大神は、チームメイトの内田しずかのためにも優勝するという一心で、プレーオフ・ファイナルを迎えていた。内田はプレーオフが始まる直前に膝の十字靱帯を損傷してしまい、試合に出られる状態ではなかった。
バスケットでは、コート内ではお互いを「コートネーム」で呼び合う。大神は「シン」、内田は「フェイ」と呼ばれている。
「フェイのためにも勝とう」
プレーオフが始まる前、チーム内で合言葉ができた。
大神は、内田の気持ちを誰よりも理解していた。内田の姿が、昨年の自分と重なって見えていた。
昨年2月7日、大神は日本航空との試合で左手首を骨折する。全治3ヶ月の重症だった。2月中旬から3上旬にかけて始まるプレーオフの出場の道は途絶えた。
昨シーズン、JOMOは2年ぶりに優勝を遂げる。だが、当然大神が出場することはなかった。優勝の瞬間を、ベンチで迎えていた。
大神は、痛みに堪えるリハビリの毎日に、不安を覚えた。バスケットができない、悔しさもあった。
「リハビリ当初は、パスもドリブルも全然出来なくて。自分がバスケット選手ではないような感覚がありましたね。」
怪我は辛い出来事だった。だが、大神の心が折れることはなかった。怪我があったからこそ、周囲の人の支えが今の自分を形成している、と気づくことができた。仲間とプレーすることが当たり前の出来事ではない、と心に刻んだ。
大神は昨年4月に復帰を果たす。医師の診断より、1ヶ月も早かった。
「昨年怪我をした時の担当医や看護師の方々に『今年のファイナルは見に行くからね』って言われました。自分の支えになってくれた人のためにも、絶対にやらないと、って思いましたね。あと今年、怪我をしてプレーオフに出られない選手がいて。だから、その選手のためにも、自分が何としてもプレーをして、勝ちたいと思いました。」
恐怖や悔しさ、辛さはあった。だが、周囲への感謝とプレーへの情熱が大神を成長させたことも、揺らぐことの無い事実であった。
そして、内田が怪我をしたことで、何としても勝たなければいけない、使命感が生まれた。彼女の痛みを知る大神の、断固たる決意だった。
大神は怪我をしてから、左手首にはテーピングを巻いて、左腕には手首から二の腕まで をしっかり覆うことができるポーターをして、試合に臨んでいる。
あと、1勝である。
JOMOが勝てば優勝となる。キャプテンである田中利佳は、試合前、ロッカルームで最後の意思統一を図った。
「今日で終わりにしよう。」

代々木第二体育館には、緑のタオルを掲げ応援歌を熱唱するJOMOのファンとピンクのメガホンを否応なしに叩くトヨタのファン、はっきりとしたコントラストで会場は二分されていた。最上段には、立ち見のファンが少し不満げな顔をして、ただずんでいた。日本バスケットの世界では、少し珍しい光景だった。
大神は躍動した。
普段の明るい、晴れ晴れとした彼女の表情は試合中、影を潜めた。その替わり、勝利を目指して先頭に立つ、リーダーの表情があった。試合中は誰よりも厳しい表情で、仲間を叱咤激励した。
「試合中は、『対トヨタ』っていう感じではなかったですね。というよりも、『対自分たち』という感覚で戦ってましたから。」
JOMOは圧倒的な強さで、第4ピリオドまで駆け抜けた。
残り、1.5秒となった。会場のJOMOサポーターは今にも踊りそうな表情で、ボールの行方を追っていた。
スコアは79-58だった。
JOMOの優勝は、時間の問題だった。
「ピーーーーー!」
主審の笛が鳴った。試合終了ではない。相手選手の腕が、大神にあたった。
フリースローが2本、大神に与えられた。
「まさかあの時間で、自分がファールされるとは。『えー、このタイミングですか』って思いました。」
シュートの出来は関係なかった。2本目のシュートを打った時、大神は素早く踵を返した。そして、奥にある電光掲示板を見ながら、ゆっくりとコートの中央に歩き出した。
体育館の東側のスタンドは、喜びを爆発させる。
控えメンバーは、弾かれる様にコートに飛び出す。
0秒、試合終了告げるブザービートが、体育館に鳴り響いた。
JOMOの2連覇を、決める合図だった。
「ブザービートが鳴ったとき、今まで聞こえなかった歓声が、しっかりと耳に入ってきたんですよ。でね、メンバー全員の顔が、順々に浮かんできましたね。」

大神は、歩くの止めた。
大きく、素早く、そして高らかに、両腕を振り上げた。
白い歯を見せながら、体全体で喜びを表現していた。
彼女は、笑っていた。
大神は左腕にサポーターをしている。プレーオフ前、英語で短く文章を入れた。
「ONE FOR ALL ALL FOR FAY」
一人はみんなのために、みんなはフェイのために、と。
来年、JOMOは3連覇を目指す。
メンバーには大神がいる。
そして、内田もいる。
(西本匡吾=文)
タグ: 日本一決定戦 —
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[塾生]西本匡吾- kyougo_nishimoto
- 1987年9月生まれ。明治大学法学部在学。現在4年生ながら、新聞社から内定をもらうため就職浪人を決意する。金子塾入塾後は「とにかく現場に出ること」を意識し、スポーツの種類にとらわれず取材を行っている。将来はバスケットボールについて執筆し、日本バスケの発展に貢献したいと考えている。
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