[塾生]西本匡吾
- コメント(1)
- 2012年1月24日
言葉を伝える「通訳」という仕事

アシスタントコーチ兼通訳を務める勝久ジェフリー氏(千葉ジェッツ)
チームの数だけ、彼らは存在する。
英語を左耳、日本語を右耳で聞きわけるかのように、外国人選手と日本人選手の橋渡しを担う。会見では、公式コメントとして監督や選手の言葉を正確に伝えなければいけない。時として、コートやグラウンドを超えた生活の部分でも接する。
「通訳」という存在は、外国人を雇っているスポーツチームには不可欠な存在である。
とりわけ、バスケットボールにおいて、通訳はより重要になる。
JBLでは1人、bjリーグでは3人の外国人選手が出場可能であり、日本人選手だけで試合に挑むチームはない。JBLでは8チーム中4チーム、bjリーグでは19チーム中と8チームと、外国人ヘッドコーチが指揮を執る姿もざらに見ることができる。
■言葉を覚えようとせず、「その人になる」こと
今シーズンからbjリーグに参戦した千葉ジェッツのアシスタントコーチを務める勝久ジェフリー氏は、アシスタントコーチと通訳を兼任している。英語と日本語のバイリンガルだ。ビジネス面で通訳の経験はあったが、初めてバスケットボールチームを担当したのは昨シーズンから。もともとコーチを志していたこともあり、東京アパッチに加入することになった。
昨年の経験からジェフリー氏が学んだことは「その人になる」ということ。
同時通訳の場合は、言ったことをすぐに英語にできることから、意外にも苦になることは少ないという。また当時、東京アパッチを率いていたのはNBAで通算310勝をあげたボブ・ヒルだったこともあり、通訳を介して指導することに長けていた。
けれども、長い時間に渡って話す相手の場合は、言葉を訳す作業の前に、それを覚える必要がある。
話し方も、結論を最初に述べる人や抽象的な話から入る人など千差万別のため、決まったパターンがない。正確なインプットは、通訳をするうえでのひとつの関門である。
しかしジェフリー氏は、言葉を覚える、という考えをできるだけ排除するよう心掛けている。
「覚えようという考え方だと、自分にプレッシャーを掛けてしまいます。でも、普通に会話をしていたら、言われたことをすぐにまとめて答えられるじゃないですか。自然とコミュニケーションをとって頭に入れると心に残こるんです」
相手の言葉を覚える、ではなく、言葉の根っこを理解し合う。それが最も大切だという。
「去年の経験から学んだことは覚えるということではなく、その人にならないといけない。その人になれば、言葉を覚えなくていいんですよ。根本的な想いを理解すれば、例え少し言葉が違っても、ニュアンスは伝わるんです」
現在は、かつてカタール代表のヘッドコーチを務めたエリック・ガードーの言葉を訳す。千葉ジェッツは新規参入チームであるため、ガードーと組むのは今年からだが、記者会見といった質問内容が限られる場合は、予測した答えをそもままコーチが言うこともある。
「例えば、記者会見のときでも、こういう質問を聞かれたらコーチはこう答えるなとか。それは日常の会話をしっかりとできていたら、予測できるものなので。頭で予測したことをコーチがそのまま言ったこと?たまにあります(笑)会見で知りたいことは、多くの人は似ているので、多分こういうことを言うのだろうなと。そういう質問があると、『これは前に答えたから大丈夫だよね』という感じでコーチが僕のことを見て、話し出しますね」
そこには二人にしかわからない暗黙の了解がある。想いの理解は、早くも深まっている。
■「選手兼通訳」という離れ業

選手兼通訳として活躍する比瑠木謙司選手(JBL・レバンガ北海道)
JBL・レバンガ北海道にいる比瑠木謙司は、ベンチではヘッドコーチであるトーステン・ロイブルの傍に座っている。それはアシスタントコーチとチームマネジャーの次に近い距離である。
彼は今シーズンから選手としてだけなく、通訳としてもチームと契約を結んでいる。
通常、選手ならばまずは自分のことを考えれば良い。自分が試合に出るために、チームにどのような貢献ができるのか。この一点のみに力を注ぐ。
だが、通訳を兼任するということは、自分よりも先にチームを考える必要があるのではないか。
「そこは割り切るようにしていますね。通訳をやっているときは自分のプレーのミスだったりとかもしっかりと通訳します。プレイヤーも通訳もちゃんと出来ていますね。さすがにゲームに出ているときは、アシストタントコーチにお願いしているんですけど。あまり苦ではないです。プラスの面も凄くあります。コーチは日本に来たなかでも素晴らしいコーチだと思うんですよ。やはり、彼の考えを一番近くで吸収できるというのは、僕にとって凄くプラスだと思います」
また、選手が訳すことの強みもある。
それはコーチが言った言葉を、十分に理解した上で話せるということだ。戦術的な言葉はもちろん、気持ちの部分をより汲み取ることができるという。コート内で苦楽を共にしている分、通常の通訳と比べて、その距離は一線を越えている。ロッカールームの雰囲気や選手の心情を知っていることも、間違いなく選手ならではの経験である。
「おそらく、僕ができる強みというのは、コーチが『ワー』と言っているのを『ツー』って淡々と訳すのではなくて、しっかりと選手に言って聞かせられることができることかなと。専門用語というより、気持ちの問題ですよね。外国人のコーチとかはあまり淡々としている人がいないから、激しくするときもあるし、ユーモアを交えて話しときもあります。そういうことを意識しながらできますね」
どんなヘッドコーチが情熱的でも、それを伝える通訳が冷静を装っていたら、聞く側はしらけてしまうだろう。
今シーズンのレバンガ北海道はドイツ人ヘッドコーチであるトーステン・ロイブルが率いている。彼は2011年にドイツのプロAリーグでコーチ・オブ・ザー・イヤーを受賞した人物であるが、彼の戦術やメンタリティを伝える比瑠木の役目は、非常に重要であることは言うまでもない。
レバンガ北海道のアシスタントコーチを務める佐藤氏は言う。
「彼の通訳は少し並外れています。トーステンの言葉と全く同じ、表現もそうですし、使う言葉もそうです。全てがトーステンと同じ感覚で話していると思います」
選手兼通訳、そんな離れ業をしている人物が日本バスケ界に存在している。
■出産の立会いも!?コートを離れても付き合う。
また、通訳の仕事はコート内だけとは限らない。
アルビレックス新潟BBはbjリーグの創設から参戦している日本初のプロバスケットボールチームである。そのチームに高森英樹氏は2001年から携わっている。
「最初はゼロ、むしろマイナスだったので、今でも上手くなったというのはないですね(笑)」と本人は言うが、同じでチームで10年超えるをキャリアを築くことは、決して容易なことではないはずだ。
アルビレックス新潟BBは現在、ヘッドコーチと選手を合わせて6人の外国人と契約をしている。高森氏は、コートを離れても当然に彼らにとって必要な存在になる。日本において英語のサービスが少ないのは事実であるし、ましてや新潟となると東京や神奈川といった県と比べて、お世辞にもそれが多いとはいえないだろう。
「今年は家族連れが多くて、この間もクリス・ホルム選手の子供が生まれてそれに立ち会いました。また、新しくベネット・デービス(※1月17日に加入)という選手が来るので、(夫人と子供合わせて)14人になります。日常の世話だけでなく、遠征の前にコーチの子供が風をひいて21時くらいまで病院にいたこともあります。もう普段の生活に入り込んでますね」
マット・ギャリソンHCやナイル・マーリーは日本での生活期間が長いため助かっている部分もあると言うが、それでも15人というのは非常に多い。それだけチーム内での役割も大きくなっている。
また、通訳という仕事は常に公募されているわけではない。1スポーツチームにつき1人の通訳といった具合であるため、仮に求人があったとしても採用数が少ない仕事である。最後に「通訳になるためには?」という質問をぶつけてみた。
高森氏も、求人公募されていないアルビレックス新潟BBに直接履歴書を送って現在に至る。
「やっぱり、うちの小松もトライアウトを受けて今こうやって試合に出る選手になりました。行動しない限りはいくら思っていてもできないと思います。運があればその時にできるし、なければ待つし。バスケットと同じですよね。アタックしないとシュートはできないですからね」

2001年の創設からチームを支える高森英樹氏(アルビレックス新潟BB)
スポーツチームにおいて、外国人助っ人の存在は欠かせない。指揮官は知性をコートで表現し、時としてそのスポーツの将来的な発展までもを担ぐ。選手は強靭なパワーと迫力で見る者を惹きつけ、世界と戦うための経験値を与えてくれる。
世界に開かれた市場は、もう閉じることはない。
だからこそ、異国の地から極東の島国に来る彼らの傍には、「通訳」という言葉を伝えるスペシャリストがいる。
これもまた、確かなことである。
コメント(1)
- 小宮智貴2012年1月26日 1:40 AM
Twitter引用させて頂いた者ですm(_ _)m
記事の視点がとても面白かったです。
仕事の面でも、一ブースターとしても
とても興味深い内容でした。
通訳という仕事の側面もしれましたし、単なる通訳という範囲に留まらず
外国人選手にとっては、日本の家族のような存在なんですね。
これからも楽しみにさせて頂きます。
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[塾生]西本匡吾- kyougo_nishimoto
- 1987年9月生まれ。明治大学法学部在学。現在4年生ながら、新聞社から内定をもらうため就職浪人を決意する。金子塾入塾後は「とにかく現場に出ること」を意識し、スポーツの種類にとらわれず取材を行っている。将来はバスケットボールについて執筆し、日本バスケの発展に貢献したいと考えている。
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