[塾生]西本匡吾

  • 2011年12月15日

[JBL]自由と信頼〜バスケチームを束ねるマネジメント術〜


 アイシンシーホースの歴史は、鈴木貴美一と共にある。
 鈴木がヘッドコーチに就任にしたのは1995年、当時のチームはまだ2部であったが、わずか1年で1部へと押し上げる。その後、2002年から2011年の間で、天皇杯を8回、リーグ戦を4回制覇した。天皇杯は現在、4連覇中である。 アイシンシーホースというチームは、「常に挑戦者」という本人たちの自覚を他所に、JBL(日本バスケットボールリーグ)にて絶対王者として君臨している。チームを率いて、今年で17年目となった。

 今シーズンは長くチームを支えていた佐古賢一が引退を表明し、網野友雄と竹内公輔の日本代表コンビが他チームに移籍したが、ここまでリーグ戦で2位につけている。それも、1位のトヨタ自動車アルバルクと勝率は同じで、ゴールアドバンテージの差で順位が違うだけ。

 チーム作りに関して、鈴木の考えは一貫している。筆者が以前に取材した際、「チームで最も大切にしていることは?」という問いにこう答えている。
  
「『1+1』が『3』になるような組織を作らないといけないです。良い選手を集めても、身勝手なことをすれば、チームとして成立しないで個の集まりになってしまいます。チームとしてしっかりケミストリーを考える。だから、チームワークを乱すような言動と行動は、我々のチームでは決して許されないです。それはぶれないようにしてきましたね」

 鈴木はアイシンを含めて長いヘッドコーチ歴であるが、陰で他者を批判する選手がいた場合は必ずと言って良いほど成績が残せなかったという。
 アイシンのベンチでは、得点が入った際、控えの選手たちがコートに入ろうかという勢いで飛び出す姿を見ることができる。何度も面接を繰り返して獲得した、ケビン・ヤング、アンソニー・リチャードソンの両外国人が中心になって喜ぶこともあり、そこに国籍や年齢は関係ない。
 
 シーズン前にリンク栃木ブレックスから移籍したきた大宮宏正は、チームの雰囲気について聞くと、止め処なく言葉を発した。

「それはすごく良いですね。練習もいい意味で和気あいあいで。仲良しバスケではなく、コートに集まったらガチッとぶつかり合っています。喧嘩みたいにもなりますしね。でも、それは勝つためにやっているので。練習が終わったら、みんな仲良くもとに戻って、また明日というふうになれる。この切り替え加減がいいですね。本気のときは本気、緩むときは緩む。その落差が大きすぎるくらいなのが、このチームの良いところだと思います」

 鈴木は自らを「怒らないコーチ」という言うように、選手たちを叱咤する機会は年に2〜3回ほど。物事の1/5程度はアドバイスを送るが、それ以降はあえて選手たちに自由を与えている。

 青山学院大学を卒業し、今シーズンからアイシンに加入した橋本竜馬は、大学時代との違いを話してくれた。

「鈴木コーチは自由な感じで。ミスをしてもオッケーという感じなので、やりやすい面はすごくあります。僕たちのことをとても信頼していて、ゲームでもそういう作りをしてらっしゃるので。みんなが積極的にやるよう、自主性に任せている部分はかなりあると思います」
  
 JBLでの経験が長い大宮には、外から見ていたアイシンとにギャップがあった。

「特別な指示がないというか。基本をしっかりしたバスケットボールをやろうというのがコーチの指示なので。僕はもっとシステマチックで難しいのかなと思ったら、意外とシンプルなことにビックリしました。それこそ数字で表せるくらいの細かいスタイルだと思ったんですけど・・・」

 もちろん、これは鈴木が計算して行っていることである。

 自由を与えるということは、信頼しているというメッセージを送るため。あえてアドバイスをしないのは、選手たちにプレーの選択を考えさせているから。自由に考えさせて、プレーさせて、そして、チームが行き詰り「どうしよう?」となったときにコーチがツボをつくようにアドバイスを送る。これは試合中でも同じ、タイムアウトやハーフタイムでの指示は多くても3つだという。―――鈴木。

「ガミガミと僕が叱りながらやらせているチームではなくてポイントだけを言うから、選手たちがしっかりと『チームのために何ができるのか』を考えないといけないです。それができないと、このチームにはいれない。僕が何も言わない分、そういう意味では厳しいチームかもしれません」

モチベーションには内的、外的と2つの種類があるが、鈴木が選手たちに促しているのは、内的、のほうである。いかにして自分たちで動くかを最優先させている。それを継続した結果が、トーナメント形式の天皇杯を10年間で8度制覇した要因であることに違いない。

 とはいえ、「ポイントしか言わない」というのはそのまま選手とのコミュニケーションをしないということではない。むしろ、選手とのコミュニケーションは積極的に行う。出番が少ない選手とは食事にも行く。練習前に選手の傍に言って会話を交わす。
 
 大宮は言う。

「親しくといったら変ですけど、プレー面も精神面に関しても相談に乗ってくれたりしてくれるので。これも僕が思ってたより差があるのではなくて、良い距離感にいるなと。近すぎず、遠すぎず。練習前の会話?コーチは極めていると思います(笑)いい具合に話を聞いてくれるので、それはもう、申し分ないですね。とにかく僕は信頼しているので。1分でも2分でも10秒でもプレーして、勝ちに繋がれば良いと思っています」 

 アイシン所属して6年目となる高嶋一貴は、今シーズン最も飛躍している選手の1人である。昨年までは出場時間はシーズンで約100分と出番が少なかったが、今では激しいディフェンスを武器にしてチームに欠かせない存在となり、すでに出場時間は合計で290分となった。

「アイシンのバスケットボールというのは個人が目立とうとするのではなくて、チームのために1分でも2分でも、10秒でも20秒でも動く。それが徹底されているチームなので。その証拠といったら変ですけど、それが勝っている要因じゃないかなと。ずっとアイシンにいてそう感じています」

 シーズン前には日本代表クラスの3人が抜けたこともあり、鈴木のところには多くの電話が掛かってきたという。

 今年は大丈夫なのか、と。

 しかし、ふたを開けてみれば、例年通りの成績を収めている。
 1分でも2分でも10秒でも・・・。高嶋と大宮、スターティングメンバーではない2人が同じ言葉を発するところに、鈴木の手腕とチームの強さが見てとれる。

 

[塾生]西本匡吾



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