[塾生]小谷紘友

  • 2011年11月24日

運命(さだめ)/静岡市立清水商業高等学校サッカー部監督 大滝雅良

 刻み込まれた歴史を振り返り、寂しくなるように。
 抗うこともできず受け入れるしかない現実を、悲しむように。
 運命でしょうと笑いながらも、彼は悲哀を含んだような眼差しで遠くを見つめていた。

「僕も、それがわかれば苦労しないけどね」

 清水商業を率いて高校選手権、高校総体、全日本ユースと頂点に立つこと12回を数える彼、大滝雅良監督にも勝ち続けていく理由は分からない。ただ、困りながらも続けてくれた。

「本当の、本当の気持ちは、勝ったときも勝ったと思っていないことかな」

 勝者だけ時間が止まることはない。時は誰にも平等に流れている以上、立ち止まっていても刻々と迫ってくる。

「静岡へ帰ってきたら、次にもう新人戦が始まっている。インターハイが終われば、次は選手権だからね。いつも追われてる感じで、次獲ろう、次獲ろう。次行こう、次行こうと。そういう感じが強かったね」

 満足は、満腹になることはない。山に登ってみたら、また次の山に登りたいというそんな心境だったかなと語る大滝監督の表情は、生徒や卒業生に話が及ぶとき、一番嬉しそうに見える。勝ち続けていく理由は今までもこれからも探していくだろうが、理由の一翼を端的に表していると言えるようなデータもある。

 今まで日本がW杯に出場した4大会の中で、登録された選手は64人にのぼる。64人を出身高校別に分けると、06年W杯で登録後に怪我で茂庭照幸と入れ替わりを余儀なくされた田中誠も含めると、清水東と並び、清水商業の5人は最多である。また代表選手に加えて、リーグ創成期からJリーガーの輩出数もトップクラスとなっている。

 勝ち続ける理由に、絶え間なく優秀な選手を輩出し続けていることは間違いなく挙げられるだろう。

 ただ清水商業は公立高校であり、練習環境も土のグラウンドである。サッカーどころである静岡においては、Jクラブのユースや強豪校が近隣にひしめき合っている。自然と中学時代から逸材と名を馳せる選手がこぞって一か所に固まることはない。

「今の子供たちはJとか様々なところから声がかかって、何かが免除だよとか、何々扱いだよなんてことになると、やっぱりそこに行ってしまう。ただ、それは僕らの力が無いわけだから、僻んだり残念がってもしょうがない。相手方の親御さんと子供が欲求していることだからね」

 優秀な選手ばかり集めた結果、勝ち続けているわけではないことがわかる。初心者が在籍していたこともある高校が勝つには、当然ながら指導が重要になってくる。

 大滝監督の教えを簡潔に説明してみる。選手の自主性を重んじ、感性が豊かになることを望み、決まりごとは極力少なく、縛り付けることはしない。

「こういうことはやろうよ、こういうことは考えようよ。でもこれはやっちゃいけないよ、というルールみたいのは、細かなルールじゃなくて大雑把なものは決めるよ。物を考えてやろうよと。でも漠然と何かをやる、目的もなしに、ただ練習のグランドに立つとか、ボールを触るというのは辞めようなと。そこは注意しますね。ただそれ以外で自分で考えて、自分で工夫していくというのは大いに結構だよと思っています」

 考え、工夫し体験的に覚えることで、身に付く幅は変わってくる。感性を豊かにさせることで、多くのものを吸収してもらいたいからこそ、手とり足とり教えることはしない。言葉にしてしまうと何ともないと思われるかもしれないが、実際に教えてくれるのを習うだけの教育にどっぷり漬かっている状態では、自らで考え行動することは言うまでもなく至難の業である。

「僕らも純粋培養をしてしまっている。温室の中で育てているから、いかに自立する、自分というものをきちっと持って闘わせるか。闘う男の子にしていくことが大事じゃないかな」

 自立し、叩き上がっていく選手になって欲しいという考えには、何よりも選手の可能性を信じていることがあるからだろう。そして大滝監督自身も選手が可能性を少しでも広げられるように、感性を磨いてきた。

「風間八宏という僕より遥か上にいるような選手が、高校生としていた。それから江尻篤彦たちがいる。そこから名波浩とか小野伸二に時代が行くわけだけど、考えるという点においてはどんどん選手が進化していくんですね。で、僕ら一人の教員が見れること、やれることには限界値があるから、なんとしても色んな本を読み、色んな人と話をし、色んなところへ自分が体験して、こちらもハードルを上げていく。そうすれば選手もどんどん成長していく。教員の目線が上がっていけば上がっていくほど、選手達も上がっていくだろうなと。だから教えてはだめだと思っているんですよ」

 選手を集めるには、有利とは言えない公立高校も、商業高校という土壌は幸運な副産物をもたらすこともある。

「藤田俊哉だとか、三浦文丈とかがいたけれども、みんな中学で一番だったわけではない。ただ、弾けるようにこの学校で一生懸命やっていく。ここは商業高校だから、そういう子供達に対して色んな教科の先生方が声をかけるんですね。するとだんだん生徒たちが、僕らサッカーの指導者だけの話じゃなくて色んな人の話を聞いて粘土細工のように、銅像を作るようにできていくんですよ。だんだん出来上がっていって18歳で卒業する時にはそれなりの男の子として成長しているんですよ」

 Jリーグ選手協会会長、監事を務めるなどピッチの外でも厚い信頼を受けるリーダー達が育つ理由である。もちろん大滝の考えも影響している。

「色んな目線を、色んなものを持っているということかな。彼らはサッカー選手であると同時に一人の男の子ですから。男の子として、人と接触したときの魅力というのかな、話の感じが子供子供している子というのはやっぱり子供としか扱われないから。色んなものに会話ができるようにしたいなとは思っていたんですよ」

 自立し、自分たちで物を考え、工夫し成長していく。感性豊かに多くのことを吸収しようとする。親鳥は卵を温め、外敵から守ることには躊躇わない。しかし結局、雛が孵るときは、自分で殻を破って出てくるのである。

 清水商業が勝ち続け、卒業生がJリーグや海外でも活躍している理由も頷ける。日本の多くの高校生が教わることに慣れてしまっていることをよそに、清水商業では自活が促されるような環境が作られている。
 
 ただ、清水商業が勝つことができるのは、もう長くはない。残念ながら決まっていることである。清水商業は他校と合併し、普通高校として名称も新たに生まれ変わることが既に決定している。

 大滝監督が生まれた昭和26年にサッカー部が創部され、自身もボールを蹴りながら青春を過ごした学校に教師として戻ってきた。全国制覇や逸材を輩出し続け光を放ちながら、8年前には11時間に及ぶ、脳の手術という困難も乗り越えてきた。しかし大滝監督は来年の3月に定年を迎え、合わせるかのように2013年には“清商”もなくなってしまう。

 人々は美談として受け取るかもしれない。

 大滝監督は、運命でしょうと寂しく、そして名残惜しそうに笑っていた。

 運命には逆らえないかもしれない。ならば、一瞬でも長く大滝監督率いる清水商業に戦っていって欲しい。

 11月27日に行われる高校選手権の静岡県大会で、清水商業は静岡学園との決勝戦に臨む。

[塾生]小谷紘友, 日本一の指揮官たち



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