[塾生]西本匡吾

  • 2010年7月7日

[ウィルチェアーラグビー]飢え

 今でも、勝利に飢えている。
 11年前、島川慎一はウィルチェアラグビーに出会った。 
「事故にあって、人を嫌いになっている時期があったんだよね。だから、団体競技が苦手だったんだ。でも、友達に誘われてこの競技を見た時に『あっ、あんなにぶつかっていいんだ』って思って始めた。」
 ウィルチェアラグビーは、車椅子のラグビーである。コート上では、疾走するタイヤの音や車椅子同士の衝突音が響く。激しく熱い体と魂のぶつかり合いが、島川の心を掴んで離さなかった。
 24歳の時に競技を始めて11年が経つ。島川の経歴は、他の選手とは明らかに異なる。
 2000年から日本代表に選出される。02年の世界選手権では個人賞も獲得する。05年には「BLITZ」というチームを設立した。現在、島川も所属しており、日本選手権で5連覇を果たしている。
 アテネパラリンピック後には、アメリカの「フェニックス・ヒート」というチームからオファーがあった。迷いはなかった。
「当時、渡米して競技に専念するために長期の欠勤をしようと思ってた。でも、それを会社に相談したら 無理って言われて。じゃあと思って、すぐに会社を辞めたんだ。家も空けて、荷物も友達に預けて。帰国後の住む場所なんて保障されてなかった。だから今、ホームレスになってる可能性もあったね。」
 渡米後には、嬉しさが湧き出た。挑戦に胸が躍っていた。
「どの選手も真剣だよね。それが一番嬉しかった。向こうは40チームくらいあって、日本は10チームほど。そこで差が出ている部分もある。環境も違うかな。日本には競技にお金がでないから。だから、今、カツカツだよね。」 
 05年にはアメリカで海外選手として、初の年間最優秀選手賞と獲得した。しかし、島川は、08年の北京パラリンピック後、一度競技を離れる。自身のプレーだけでなく、ウィルチェアラグビーという競技自体を背負って走り続けてきた男は、少し羽を休めた。
「アメリカでのチーム事情もあって、向こうでの活動は終わりになった。あとは、北京が終わって、自分が疲れてしまったというのがあったかな。」
 だが、現在、島川はプレーしている。
 チームでも、代表でも、中心選手である。
「なんでなんだろうね。今でも時々考えるよ。『どうして俺はここまでやっているんだろ うな』って。でも、やっぱり、最後に思うのは『勝ちたい』ってことなんだ。」
 目標はある。今年9月にある世界選手権では、日本初の優勝を狙う。
「6月に行われたカナダ・カップという世界大会で、日本は3位となって。でも、他国の人からは驚かれなかった。『その実力で3位は普通』みたいは感じだったんだ。チームとしての手応えは掴めている。そろそろ日本が優勝してもいいかなって。」
 もう、若くはない。スピードの衰えも感じている。それでも、飢えている。
 今の島川を満たすのは、優勝、だけである。
 
(西本匡吾=文)

[塾生]西本匡吾, スポーツライター登龍門 present by 「朝日日刊インサイト」

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