[塾生]滝沢康英

  • 2010年5月18日

[こどもの日全国少年野球教室]競争させることの大切さ

 人間は競い合うことで成長できるのだと改めて感じた。『こどもの日全国少年野球教室』での一場面、町田市民球場の外野で行われていたキャッチャー講義でのことだ。
講師を務めた市川和正氏は、盗塁を二塁で刺すためのスローイングを子供たちに教えていた。
「低い姿勢でバン・バン・バン!」
 言葉だけでは意味不明なので、もちろんジェスチャーが加わっている。1つ目のバンはピッチャーの球を捕球したとき。2つ目のバンはミットに収まった球を持ちかえるとき。3つ目のバンはセカンドへ投げるとき。
 この3つの動作を腰を落として、すばやく行えというのだ。すばやくとは、動きをコンパクトにするということ。従って、大きいモーションでセカンドへ送球するなんては論外なのである。
 3つのバンの中で最も大切なのが2つ目のバンだと市川氏は言う。
「ピッチャーの投げたボールがミットに入ると同時に、腕を胸の位置に引くんだ。そうすれば、ミットと投げる手の距離が縮まるから、すばやくボールを握れるだろう」
 ピッチャーの球の速さは変えられない。セカンドへ投げる球の速さも変えられない。ならば、キャッチャーミットからボールを取り出すときの時間を縮めようというのだ。そして、小さい動作でセカンドへ送球せよ、と。
 市川氏がコツと説明すると、いよいよ実践に入る。その時、市川氏はストップウォッチを持ち出し、
「ピッチャーの球を捕球してからセカンドにボールが収まるまでの時間を計るからね。一人ずつやるよ」と呼びかけた。
 和やかなムードで聞いていた子供たちの表情が一瞬にして強張った。時間を計るということは、誰が一番速く投げられるか競い合うことになるからだ。
 一人目がミットを構えてしゃがむ。ピッチャーが投げたボールを捕球し、セカンドへと送球。ボールがグローブに収まる。
「2秒!」
 キャッチャーからセカンドまでの距離は本来のものではないから、単純にゲームの時とは比較はできないが、とりあえず2秒という数字が出た。しかしすぐに更新される。
「1秒84。速いねえ」
 記録更新した子供はミットを叩いてガッツポーズを取り、塗り替えられた子供は唇を噛んだ。
「1秒73。出たよ、7台」
 記録が塗り替えられる度に、子供は喜び、悔しがる。
「1秒68。うおお、記録更新」
 市川氏の盛り上げ方も上手で、子供たちの競争心をあおるように記録が出るとビックリした表情を見せたり、記録が出なかったら大きなジェスチャーで残念がったりする。
 子供たちも記録を破ろうと、投げ終わってからも次から次へと列に並ぶ。
「もう時間、来ちゃったよ」
 市川氏が言うと、みんな「えー」という顔をした。
「分かった。じゃあ、もう一回だけやろうか」
 市川氏の声に、子供たちは喜びながらまた列を作り出した。
 競争は勝ち組や負け組を生むから良くないという声がある。しかし競うということは切磋琢磨でもあるので、お互いに高め合うことができる。
 今日の子供たちも記録を更新していくことで切磋琢磨していた。このままの意欲で野球を続けてほしいと思う。
 そして数年後、一人でも多くの子供たちが今日よりももっとビッグなスタジアムでプレーできる選手になることを願うばかりだ。

(滝沢康英=文)

[塾生]滝沢康英, スポーツライター登龍門 present by 「朝日日刊インサイト」

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