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  • 2010年2月23日

信念

 ドレッドヘアーにサングラス。スーツを腰パンで着こなし、シャツの裾を出して空港に現れた一人の少年が大きな注目を浴びている。

 五輪公式服装を腰パンにシャツを出した格好で空港に現れる。
 これだけで日本では騒がれてしまうということを想像するのは難しいことではない。五輪に向かう制服のドレスコードが正しいか間違っているかという問題は別にして、日本社会で非難の対象になることは、容易に想像することが出来る。そこで、舌打ちをして、相手を挑発するような謝罪の態度をとった。服装ひとつで新聞の一面を飾るような大きな問題にしてしまうメディアの対応もどうかと思う。
 ただ、である。
 こういった批判が予想できる状況であったのだから、何か意図をもった行動だったのではないか。はじめ聞いたときに私はそう思った。しかし、彼は違った。会見を開き、曲がりなりにも謝罪をした。服装について記者会見で指摘され、「ちっ、うっせーな」とまで言った男が、である。

 その事実が、本当に残念だった。
 語弊を恐れずに言うと、謝ってほしくなかった。

 スノーボードには自分のすべりを、自らの生き方やスタイルとして表現するところがある。それは、スノーボード界独特の考え方なのかもしれない。他のスポーツには理解しがたい、特にスキー連盟などには受け入れられないものなのかもしれない。認知度の高い五輪を選ぶのか、表現したい滑りをただ追求していくのか。
 国母は、アメリカで人気の「Xゲーム」など、賞金大会に参加するスノーボードのプロ選手である。賞金面などを考えれば、選手団としての規律まで求められる五輪にこだわる必要はない。事実、五輪への思いを聞かれるたびに「何も考えてない。いくつかある大会のうちの一つ」と繰り返している。これは国母に限らずスノーボード選手が持つ大半の意見である。

 であればなぜ彼は、自分の信念を曲げてまで謝罪会見をしたのか。最後まで突っぱねてもよかったのではないのか。俺の表現すべき方法は、ハーフパイプでの滑りだから。だからこそスーツの着こなしではなく、すべりを見てくれ。それを納得してもらえないのであれば、五輪には出ない。そう言い切ってほしかった。それが認められないのであれば、日本に帰りますという心持ちを、持っていてほしかった。
 批判をされたのであれば、きちんと反論をする場があの会見であったと思う。悪いと思っていたのであれば、きちんと謝るべきであっただろう。ただ、悪いと思っていなかったのであれば、謝る必要はなかったのではないだろうか。
 俺の表現方法は、スポーツであり、肉体表現であるわけだから、それを見てくれよと。あそこで謝ってしまった事によって、着こなしではなく、滑りを見てくれという彼の主張が覆ってしまうことになってしまった。あれでは世間知らず、礼儀知らずの反抗期にしか見えない。
「(騒動の)影響? そんなの気にしてたらこんなことやってない。本当のスノーボーダーが五輪を目指してくんなきゃ、おれがまた出るつもりでいますね」
 本心は、スノーボードの楽しさをもっと伝えたいのではないのか。スノーボード界で大きな比重を持っていない五輪には、魅力を伝える上で大きな影響力があるとわかっているからこそ今後も出るつもりだと言ったのではないのか。

 常識のない未熟な少年か、強い信念やスタイルを持った少年か。
 表現方法ひとつで大きく違った印象を与える。

 「かっこいいと思ってくれたらいいっすね」。
 國母和宏のこの言葉こそ、偽らざる本心であると思う。
 
 であるからこそ、もったいないな。
 私はそう思うのだ。

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