投稿記事

大人としての自覚【鹿児島サッカー】

 一週間前、FC KAGOSHIMA(FCK)は天皇杯予選準決勝で、昨年の覇者であり鹿児島県最強チームでもある鹿屋体育大学と延長戦までもつれる激戦を演じていた。
 シーズン前半最大の目標と選手もスタッフも位置づけていた一戦に敗れたことで一旦、最初の挑戦に区切りがついた。
 それでも翌日曜日には鹿児島県社会人一部リーグの試合が行われた。
 会場となった北薩広域公園は山々に囲まれた盆地にある。
 夏の盆地は、間違いなく、暑かった。

 真横から観ていると、FCKは攻めあぐねているように見えた。
 前田将大と田上裕の二人は後方からの支援を得ることもできないまま最前線で孤立し、たまにボールが渡ってもシュートにつなげられないまま、前半も半分を過ぎていた。
 真昼の盆地ならではの立ち込める熱気が、選手の脚力と集中力を奪うとともに、観客の元気をも萎えさせる。
 対戦相手のFC ZCOCK(ズコック)も気持ちが入っているし、少々の苦戦はやむなし、と観ている側も割り切れた。
 FCKのプレイングコーチでもある杉本勇樹が観ている光景はまったく違った。

 杉本は主に右サイドバックでプレーするが、高さや強さではセンターバックの愛甲光や船川和継に劣っているし、左サイドバックの與那嶺大史の瞬発力や持久力には到底かなわない。
 肉体面ではまったく恵まれていないことは本人も認めている。
 それでも誰もが杉本に一目置いている。
 右利きでありながら左足でも、ロングキックを正確に蹴る技術に。
 周りを見回し、先を見通し、最適なプレーを選択する戦術眼に。

 杉本の眼にしてみれば、単純に、ズコックが中央に人を集めている人口密度の高さこそが、中盤の選手たちが思うようにプレーできていない原因ではあったが、代償として、サイドライン付近に、がら空きになっているスペースを見出していた。
 活用しない手はない。
 普段は積極的に攻撃参加する反対サイドの與那嶺大史に対して、シーソーのように残って守備を固めることが多い杉本が右サイドを駆け上がり、ゴール前にクロスボールを入れる。
 県社会人リーグでは5人までの交代が認められているし、小波津凱人や茶園大貴など右サイドバックで良いプレーをできる若い選手がベンチに控えている。
 杉本のプレーには迷いもなく、体力が尽きたらどうしようという不安もなかった。

 前半22分、またも右サイドを上がってボールを受けた杉本は、今度はペナルティエリアへ、ゴールへ向けて進路を変更した。
 他の選手のマークを放棄してでも阻止すべきか、ズコックの選手たちが迷ったわずかな隙に、杉本は左足を振り抜く。
 威力あるシュートはキーパーの守備を破り、先制ゴールが生まれた。
 嫌な雰囲気になりそうな時間帯でのゴールだった。
 ピッチ上のチームメイトたちはもちろん、観客もそして杉本自身の呪縛をも解き放つ一撃だった。

 前半終了間際にはコーナーキックから愛甲光がヘディングで追加点を奪う。
 後半開始直後、ペナルティエリア内でこぼれ球を拾った谷口堅三は、キーパーの手が届かないゴール左隅に、ころころとボールを転がし3点目を決める。
 杉本は暑さと疲労で顔を紅潮させながらも、前線のスペースへ向けて駆け続ける。
 後半11分、またも杉本は空いたスペースを見つけるや、そこへボールを出すよう最後尾の船川和継に要求し、自らそのスペースへ走ってボールを受けた。
 二秒三秒とじっくり中の様子をうかがい、ゴール前で待つ前田将大へ、丁寧に正確にラストパスを送り、4点目をアシストする。
 後半27分、ついに杉本は19歳の小波津凱人との交代でベンチに退いた。

 試合は7―0の完勝だった。
 ただ観ている側とすれば、先週の鹿屋体育大学戦との全てを出し尽くしたような激戦からの落差は禁じ得無い。
 鹿屋体大との総力戦の翌週ということで気持ちが乗りきらないのだろうか?
 対戦相手のレベルにお付き合いしてしまうのだろうか?
 こちらの質問に、杉本は大きく頷いた。
 県社会人リーグのレベルで何点取って勝ったと浮かれている場合ではないのだ。
 FCKが目指している舞台がJリーグという、今はまだ遠い世界であることもある。
 しかし、そんな遠い目標は別にしても、今、目の前にある仕事に対して、常に自分のベストを尽くさなければならない。
「僕ら社会人なんですから、一人一人がしっかりしないと」
 杉本の言葉、プレーには大人になってからもサッカーができる喜びと、大人としての責任感が満ちていた。

(小林浩宣=文)

投稿記事



コメント(1)

仮屋 翔平2011年10月13日 6:15 PM 

教師辞めてサッカ~続ければよかったのに!!
ま~だけど若かりし頃の先生見れて良かったぜ!!!


                      by~ kariya

コメントを投稿


書籍紹介

負けない自分になるための32のリーダーの習慣
澤 穂希 /幻冬舎
目標は「言葉」にすれば、必ず実現する。ブレずに強い心で戦い続けるための習慣。成功を引き寄せる、「有言実行」のメンタル術。

僕は自分が見たことしか信じない
内田 篤人/幻冬舎
彼はその端正な外見だけではない。男らしい一面をもっている。誰よりも優しい心を持っている。そして、だれよりもサッカーに対して真摯だ。

不器用なもんで。
金子 達仁 /扶桑社
『渡り鳥シリーズ』、『仁義なき戦い』など映画に出演し、『昔の名前で出ています』、『熱き心に』といった数々のヒット曲を生んできた小林旭。金子達仁が鮮やかに描き出す一冊。

サッカーの見方は1日で変えられる
木崎 伸也/東洋経済新報社
ボールを追うのは3流、フォーメーションを論じるのは2流。 では、「本当のプロ」はどこを見ているのか?今日からできる「プロの観戦術」を初公開!

バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー
オスカル・P・カノ・モレノ /カンゼン
 “美学”と“効率”が両立されている バルセロナのサッカーの本質に迫る一冊

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
長谷部誠/幻冬舎
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、 常に力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』

タイアップ

オーダーメイドシリコンリストバンド BANDIA
スポーツビジネスオンライン
soccerking