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  • 2010年7月11日

[ラウンド16 スペイン×ポルトガル]音楽

 サッカーにおける好ゲームとはどのような試合なのだろうか。ラウンド16、スペイン対ポルトガルは間違いなく好ゲームだった。
 サイドバックのフリー・ランニングに快楽を感じるのは僕だけだろうか。しかし全てのサイドバックのランニングに快楽を見出すわけではない。特定の、ある種のプレイヤーの駆け上がる様に、ときとして希望のようなものを見てしまう。
 この日ポルトガル代表の左サイドバックを務めたファビオ・コントラオンは、まさしくある類の選手だった。左サイドを駆け抜ける姿、ボールを貰い、一対一を仕掛け、果敢にクロスを上げようとする姿に、思わず心の臓を揺さぶられる。
 ファビオ・コントラオンには、ためらいのようなものは一切ない。ひとつひとつのプレーに対し、寸暇なく決断する。眼前に獲物が現れた刹那に引き金を引くハンターのように果断するのである。
 そしてこの試合でピッチに立つ全ての者がコントラオンのようにプレーしていた。カシージャスは果敢にゴール前から飛び出しピンチを未然に防いだ。クリスティアーノ・ロナウドは躊躇なくラボーナでクロスを上げた。
 ピッチ上の22人が、目に映る事態にすぐさま反応し、ひとつの生き物のように連動して動いていく。ボールを奪ったら、次の瞬間に攻撃に転じ、ボールを奪われたら、即座に守備に回る。ゴールを割るという、ただ一つの目的のために。
 それはまるで一つの音楽を聴いているようでもある。パスに、ドリブルに、選手間を行き交うボールに、選手たちの眼差しに、芝の緑を照らすスタジアムのライトに、心地よいリズムを感じる。
 このスペイン対ポルトガルは、音楽を聴いているようなゲームだった。それもそこら辺で垂れ流されているクソみたいなポップスではない。モーツァルトの交響曲を聴いているような、そんな攻防だった。
 緻密な音符が連なる楽譜から起こされたような試合、サッカーにおける好ゲームを、そう表現することはできるだろう。 
 試合を決定づけたのは、一本のタテパスだった。後半18分、シャビ・アロンソからイニエスタへの、今大会で最高と言っても過言ではないタテパスだった。そこからビジャがゴールを奪うまでの一連の流れは、まさに交響曲のクライマックスのようだった。
 サッカーでは、ときとして音の流れに身を委ねているような、そんな試合が現れる。

(本田千尋=文)

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