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- 2010年7月1日
満足か、飢えか
歴史の扉は、開かれたも同然だっただろう。もし今回のチャンスを逃せば、金輪際扉を開くことができないと思ってしまっても無理はない。
86年、ガリー・リネカー擁するイングランドの3発によりアステカの地に沈み、98年には開催国を苦しめながらも、ゴールデンゴールを決めたローラン・ブランの引き立て役に回った。02年でも門番のようなオリバー・カーンに立ち塞がれ、終了間際にオリバー・ノイビルにネットを揺らされた。
ベスト8に3度挑みながら、3度とも優勝国や伝統国によって扉は固く閉ざされてきた。4度目となる今回の相手は、優勝経験はおろか自国開催のベスト16が1度だけのアジアの島国である。もちろん勝ち上がり方は不気味に見え、侮れないことも確かである。だが過去の対戦相手に比べれば格下であることは明らかで、11年前になってしまうが自国開催の南米選手権で4発のゴールにより叩き潰した国だった。パラグアイにとって日本戦は、24年目にして巡ってきた絶好機と捉えられていても不思議ではなかった。
そして彼らは歴史を作った。苦戦を強いられながらも、扉を開いた。監督はベンチでスタッフと抱き合いながら涙を流し、海を越えた祖国ではお祭り騒ぎになったという。
喜びすぎなことはあるまい。歴史を作ったのだから、当然ともいえる喜びだろう。苦戦はしたものの、24年目にして初めて開いた扉である。選手も国民も、大いに喜ぶべき状況だった。
一方、パラグアイの歴史が作られたことにより、姿を消すことになった日本の反応である。
大会を通じて評価が一変した指揮官や選手を賞賛し、称える声はやはり大きい。しかし少ないながらも批判も目にすることも出来る。
こちらも、当然の反応と言えるだろう。
今回の日本代表は南アフリカの地で自国以外での初勝利、決勝トーナメント進出と大きな成果を挙げた。何しろ大会直前まで、決勝トーナメントはおろか1勝を挙げることすら絶望視されていたチームである。大半の国民が期待を持てず、関心すらなかったかもしれない中での望外と言える勝利を手にした。思っても見なかったことが現実として起こったのだから、驚きもするし感動するのも当たり前だろう。加えてロシアンルーレットにも例えられるPK戦での敗退に敗因を求めることはあまりに酷である。数少ない批判もおそらく根っこには、労う気持ちがあるのだろう。
ただ、パラグアイがもし負けていたら、凄まじいまでの批判を浴びていたのではないか。
優勝国でも伝統国でもないアジアの国にベスト8を奪われていて、よく頑張ったと口にする者は皆無だろうし、非難の嵐が吹き荒れることは想像に難しくない。3度も強豪に跳ね返されてきた国にとっては、今回は正に贈り物とも思えるチャンスだった。
だから日本も負けたのに批判されないのはおかしい、とは言えない。
選手は必死に戦い、監督も自分が蒔いた種にも思えるが限りある中で必死だった。
ただ、日本は満足していた。
パラグアイ戦前日、02年W杯のトルコ戦の教訓はあるかと聞かれた岡田監督は「あの時は日本サッカー全体が満足してしまった」と言った。今回日本代表がトーナメントに歩を進めたことで、満足してしまったかどうかはわからない。しかし少なくとも日本国内は満足してしまっていた。
パラグアイが日本戦をチャンスと思ったように、日本もパラグアイ戦はチャンスであった。もちろんパラグアイを軽視しているわけではない。ただパラグアイにも優勝経験はなく、ベスト8に進んだこともない。登れた高さに違いはない。
だが日本は敗れた。今回ベスト8を逃したことで、次にいつ挑めるかはわからない。また、挑めたとしても相手がブラジルやドイツであることの可能性は小さくない。
それだけに日本にとっても願ってもないチャンスだった。しかしチャンスを逸した悔しさよりも、労いの気持ちの方が強かった。心の底から批判ができないのならば、やはり満足していたのだろう。
また日本は勝利に慣れていないことが、満足してしまった原因の一つに挙げられるかもしれない。
他国が毎週末に勝利を求めている一方で、日本人の大半は4年に1度だけ勝利を求めている。テレビ視聴率が本大会だけ驚異的な数字になることからも間違いではないだろう。ましてや南アフリカに挑む代表に期待もしていなかっただけに、日本は思わぬ勝利で満腹感が満たされたのかもしれない。
ただ、満足してしまったかもしれないが時計の針の速度は、国によって異なり、速めることもできることを南アフリカで日本は学んだ。そして、新たな扉を開いたことに間違いはない。
パラグアイにも、もちろん日本にも黄金に輝くトロフィーを掴むには、まだまだ扉は続いている。
喜ぶことも労うことも必要である。しかし満足でなく、飢えることも。
(小谷紘友=文)
コメント(1)
- 冬のトリトン2010年7月2日 8:51 AM
満足というなら、カメルーン戦に勝った時点ですでに日本人は満足してたんじゃないですかね。あの試合の前までは、一部のヨイショ解説者以外はほとんどが「3連敗だろう」と思ってたんですから。仮に1勝2敗で予選敗退でも、「日本開催以外での初の1勝」ともてはやしていたんじゃないかと思うんですが。
自分はむしろ負けるのが遅すぎたくらいだと思います。だってどうみてもマグレですもんね。勝てたのは、たぶん直前の結果をみて日本をなめきっていたカメルーン、引き分けでもダメだという追い込まれた状況のデンマーク。カメルーン戦は、ラッキーパンチ1発、デンマーク戦はフリーキック2発。これ、チーム力というより、個人の力といったほうがいいでしょ。守備は安定していた? 強豪相手でも守備的に戦えることは、フランスW杯の時にすでに実証済み。油断というものがなかったオランダ、対等な状況だったパラグアイには結局勝てませんでしたよね。これが現時点での、純粋な実力ですよ。
まあともかく、日本の南アフリカW杯は終わりました。あとはこれから代表をどう強化していくかでしょうね。ただ今回の結果が、「それまでの試合がどれだけダメ試合でも、本番さえよければそれでOK」という悪しき前例にならなきゃいいんですが・・・。
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