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  • 2010年7月1日

「バトン」~パラグアイ戦~

プレゼントは尽きてしまった。
2010年6月30日、アフリカはプレトリアで行われた日本対パラグアイ。勝負はPK戦へともつれた。
勝負はほぼ互角の展開だった。 ブラジル、アルゼンチンなどの強国と予選を戦い守りを固めながら一瞬の隙をつき勝利を我が手に収めてきた試合巧者パラグアイとこのワールドカップ本大会での経験を通じて自分達の潜在能力を信じはじめようとしている日本はどちらも譲らなかった。
試合はいくつか決定的なチャンスを相手に与えながらも最後の最後で体を投げ出し、気持ちを全面に出して、からくも攻撃を防ぐ日本と攻め込まれながらも最後の一線は頑として譲らないパラグアイ、一進一退の戦いが続く。
延長戦に入ってからの勢いは日本にあった。が、決め切れなかった。
最後まで皆が懸命に走る日本とそんな日本に驚きながらPK戦を視野に入れて時間を使うパラグアイ。そしてPK戦へ。
PK戦は時の運だ、とするならば最後に勝負を分けたものは積み重ねてきた時間の差ではなかったか。国民総出で勝利を願い続けたパラグアイとまだまだワールドカップの直前だけ付け焼刃に応援する人数の多い日本のサポーターとの違い。
南米という場所で日々痺れるような戦いを乗り越えて戦い方を熟成させてきたパラグアイと付け焼刃のシステムで本大会に臨んだ日本。
パラグアイの選手は皆、PK戦でも落ち着いていた。
日本がPK戦の練習をしたのはおそらく決勝トーナメント進出が決まってからだろう。無理もない。日々積み重ねている時間の蓄積の違いが最後の勝敗を分けたのではなかったか。
カメルーン戦、オランダ戦、デンマーク戦と日本に微笑み続けた幸運の女神は最後の最後には微笑まなかった。十分な幸運を与えてはくれなかった。
決勝トーナメントで勝利を勝ち取るには少し勇気が足りなかったかもしれない。
幸運の女神を微笑ませるにはグループリーグ以上の勇気が必要とされたかもしれない。
それでも先の見えない勝負に全力を振り絞り、相手の攻撃に体を投げ出して守備をしてチーム一丸となり力尽きるまで走る、そんな代表選手たちの姿を見るのはいつ以来だろう。ジョホールバル以来のような気がする。 

良くも悪くもワールドカップ本大会初出場から12年、代表にはいろんな経験・いろんな歴史が紡がれている。ドイツでの失敗があったから今回のチームは団結することが重要だと思えた。日韓ワールドカップの盛り上がりがあったから、ゴールデンタイムでワールドカップ日本戦を提供することはお金になる、という過去ができた。

見えても見えなくても、バトンは次の世代に、そしてそのまた次の世代へと受け継がれていく。良しも悪しきも。それを意識的に拾うか、無意識にうやむやと預かるかは皆の意識の問題だろう。
今大会の日本代表は日本の選手の潜在能力が決して低くはないことを教えてくれた。
本大会直前でのシステム変更。付け焼刃での戦い。決して楽なことはない。
それでも選手がチームとしてまとまって団結して戦えるなら、一人一人の選手が自信を持って、できるならば蓄積できるだけの万全の準備をして世界と戦うならば決勝トーナメントでの勝利は決してまったく手の届かない世界ではない、ということを教えてくれた。
ファンは、サポーターはこの先どうするのだろう。
勝利を、さらなる勝利を日本代表に求めるのだろうか。日本代表を支えるJリーグを見に行こう、選手に叱咤激励を送ろう、と思えるのだろうか。代表に、それを支える選手に、可能性はある。それともまた、ワールドカップの前にだけこぼれる蜜をすするように盛り上がる道を選ぶのだろうか。
日本のサッカーには可能性がある。
さらに大きなことを成し遂げる可能性も、そしてまた今大会のフランス代表のようにチームとして機能しないチームになりはてて崩れ落ちてゆく可能性も。
代表を支える選手を、そして体制を、Jリーグは、日本サッカー協会はどうするのだろうか。
今回の結果にあぐらをかき、現状維持を決め込むのだろうか。

完璧な準備などというものがありえないことは承知している。しかしもし、代表チームに世界と戦う機会が2002年の準備時のようにもっと前に、もうすこし数与えられていれば。
最後の最後まで自分の理想を追おうとして頑なであった岡田武史という人を翻意させる機会がもっと前に与えられていれば。
もしくは、監督自体が交代し、舵を切りなおす機会が早い段階で与えられていれば。

時間は経ち、歴史は紡がれる。 バトンをどう引き取るのか、選択するのは、私でありあなただ。
日本代表チームが日本のサッカーを愛したいと願う全ての人のものであるならば。
日本サッカー協会を軸とするサッカー経験者のみを対象とした人々だけのものでないならば。
あなたは、そして私は勝利を願うのだろうか。ワールドカップにおいて日本代表に、また世界で戦う機会を持つことができる全てのJリーグのクラブに。日本人選手に。これ以上の勝利を選手に、そして協会に、Jリーグに、自ら求めるのだろうか。 
日本のサッカーをもっと愛させてくれと。 代表は日本代表チームを愛するわれわれのものだ。代表を粗末に扱わないでくれと。選手を粗末に扱わないでくれと。
勝利を。もっと勝利をと。
走れ、もっと走れと。 戦え、もっと戦えと。世界で勝てるように戦えと。
気持ちを出して戦えと。走れなくなるまで戦えと。
与えろ、機会を与えろと、もっと選手が世界と戦える機会を与えろと。
与えろ、もっと与えろと。選手を世界で勝たせられる指導者を与えろと。
あなたは求め続けられるだろうか、私は求め続けられるだろうか。
あなたは叱咤できるだろうか、私は叱咤できるだろうか。
世界と戦うためのプレッシャーを選手に、チームに、Jリーグに、そして日本サッカー協会に求め続けることができるだろうか。 
今この瞬間から問われているのはあなたであり、私だ。
4年後という時間のカウントダウンはもう始まっている。
未来は今が紡いている。

(吉本和孝=文)

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[塾生]吉本和孝
kazutaka_yoshimoto
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