[塾生]本田千尋

  • 2010年5月24日

相撲を愛するあなたへ。

 両国国技館は独特の匂いで染められている。
その匂いは国技館に足を踏み入れると体全体で感じ取ることができる。これまで国技館に足を踏み入れた全ての人達の相撲への想い、相撲による記憶が紡いできた、特有の匂いである。人はそれを「伝統」と言う。
 大相撲五月場所は8日目を迎えた。
 両国駅から続く人の波にまぎれて、そのまま国技館の中へ。周りを見ると、老若男女から外国人の方々まで、これから大相撲を見ることへの期待で胸を膨らませ、ある人は足早に、ある人は帆を弛めながら場内に入っていく。
 席に着くと、声を掛けられた。
「エイゴワカリマスカ?」
 振り向くと、1つ空席を挟んで、隣に外国人の青年が座っている。聞くところによると、ドイツのフライブルグから来たのだという。日本の文化に興味があって、スポーツでは相撲と野球に興味があり、今日相撲を初めて見るのだ、と言った。自分も国技館で相撲を見るのは初めてなのだ、と伝えると、なんとはなしに一緒に相撲を観戦することになった。
 相撲はフライブルクから来たドイツ人青年の目にはやはり興味深く映るらしく、質問責めが続いた。試合はレフェリーの合図で始まるのか、それともスモウレスラー達が勝手に始めるのか。レフェリーのユニフォームの色は何かを表わしたものなのか。一番強いレスラーはどれだ。今たくさんの人間が舞台に上がってフラッグを下げながら周っているがあれはなんだ。あれはコマーシャルだ、と応えると彼はおもむろにビデオカメラを取り出して熱心にその光景を写し始めた。
 取り組みが終盤に差し掛かった頃、ふと彼が言った。
「日本の伝統である相撲に外国人のレスラーがどんどん入ってきているのをどう思う?一部の日本人は、彼らを排除して相撲は日本人だけで行うべきだと言うだろう?もっとアメリカやメキシコ出身のレスラーがいても面白いと思うな」
個人的には外国人力士が増えてきているのは悪いことではないと思うし、相撲はもっと国際化するべきだと思う、と言うと、
「でもやっぱり相撲は日本の伝統だから日本人がやったほうがいいんじゃないの」
 と言って彼は笑っていた。どっちだ。
「日本人」とは何だろう。「日本人」とはこうである、と定義づけることのできる人が、どれだけいるのだろうか。
 国技館から両国駅へと向かう帰り道、周りを見ると、やはり老若男女から外国人の方々まで、大相撲を見たことによる幸福感で胸を膨らませ、駅の方へ向かっていく。図上では矢倉太鼓が鳴り響き、夕日が辺りを照らしている。
 いいのではないか、と思う。この光景が、土俵の上でも展開される日が来たとしても。多様な人種の人達が土俵の上で取り組みを行ったとしても。
 新しい匂いが紡ぎだされ、「伝統」が受け継がれていくのなら。

(本田千尋=文)

[塾生]本田千尋, 投稿記事



コメントなし

コメントを投稿


書籍紹介

負けない自分になるための32のリーダーの習慣
澤 穂希 /幻冬舎
目標は「言葉」にすれば、必ず実現する。ブレずに強い心で戦い続けるための習慣。成功を引き寄せる、「有言実行」のメンタル術。

僕は自分が見たことしか信じない
内田 篤人/幻冬舎
彼はその端正な外見だけではない。男らしい一面をもっている。誰よりも優しい心を持っている。そして、だれよりもサッカーに対して真摯だ。

不器用なもんで。
金子 達仁 /扶桑社
『渡り鳥シリーズ』、『仁義なき戦い』など映画に出演し、『昔の名前で出ています』、『熱き心に』といった数々のヒット曲を生んできた小林旭。金子達仁が鮮やかに描き出す一冊。

サッカーの見方は1日で変えられる
木崎 伸也/東洋経済新報社
ボールを追うのは3流、フォーメーションを論じるのは2流。 では、「本当のプロ」はどこを見ているのか?今日からできる「プロの観戦術」を初公開!

バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー
オスカル・P・カノ・モレノ /カンゼン
 “美学”と“効率”が両立されている バルセロナのサッカーの本質に迫る一冊

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
長谷部誠/幻冬舎
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、 常に力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』

タイアップ

オーダーメイドシリコンリストバンド BANDIA
スポーツビジネスオンライン
soccerking