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[書評]「言語技術」が日本サッカーを変える
筆者の田嶋幸三は、1983年からの3年間、ドイツで12歳~13歳のサッカー少年を指導していた。
そこでは、日本では見ることのない光景があった。練習環境ではなく、少年たちの言葉の部分で。
「クラウス、どうしてそこにパスを出したんだ?」
田嶋がゲームを止めて問いかける。
「だってペーターは足が速いんだから、そこに走るべきだから」
ペーターも黙ってはいない。即座に言葉を返す。
「いや、オレはこっちにパスをしてくれと言っただろ。ボールがきたら、ドリブルで仕掛けようと思っていたんだ」
このような意見交換は、ドイツでは当然のように行われていた。プレーには何かしらの意図があり、それを相手に伝える努力をする。しかし、日本の同世代は、指導者が練習を止めるとみな黙りこんでしまう。選手たちは指導者が言わんとする言葉を必死に探し、意見ではなく、答えを探す表情に変わる。田嶋がドイツへ留学していたとき、日本との差を感じた部分は「自分の考えを言葉にする表現力」だったという。
タイトルにある「言語技術」とは、情報を取り出し、解釈し、自分の考えを組み立て、判断する力を養っていくという意味である。
一見、サッカーとは相関性が薄い。
しかし、プレーの意図を相手に伝えるためには、どんなに優れた技術があっても、それを言葉に変えて発信していかなければいけない。かつては中田英寿が、今では本田圭佑といったサッカー選手が日本では「異端」や「出る杭」といった我が強い見られ方をするが、それは欧州では当たり前のこと。むしろ、サッカーではプレーの意図を相手に伝え、相互理解を深めていかなければいけない。「なぜ?」「どうして?」と議論の積み重ねが、一瞬の判断の肥やしとなっていく。
本書が刊行されたのは2007年11月と少し時間が経過しているが、わずか4年で大きな変化を遂げることは難しい。言語技術の習得は付け焼刃の作業ではなく、日本の教育システムとも密接に関わっていることであるからだ。
田嶋が創設に携わったJFAアカデミーでは、サッカーの技術はもとより言語技術の習得もカリキュラムに盛り込まれている。日本の学校教育ではあまり見ないディベートを始めとした倫理力を鍛える内容が多い。
例えば、1枚の絵を見せて「この人は何をしているのか?」「その理由は?」といった質問を浴びせていく。そうすることで、子供たちは、自分はなぜその答えを導いたのかプロセスを考えるようになる。プレーの意図を説明するためには、こうしたピッチの外の教育も必須となってくる。
そして、これは選手だけではく、指導者にも必要な能力である。
Jリーグが創設された当時、日本人監督が率いていたチームは全体の2割しかなかった。
「日本人監督は、自分のチームの選手たちを自身の『倫理』と『ことば』によって説得しプレーさせる力がたりない」
田嶋の目にはそう映っていた。
ジーコ、リネカー、リトバウスキ・・・といった選手が鍛え抜かれた倫理で「どうしてこの練習をするのか?」と聞いてくる。しかし、日本人監督は答えることができず、逆に、自分が攻められていると感じてしまう。「なぜ」に対して「なぜなら」と答えることができずに、悪いスパイラルにはまったしまった結果、Jリーグの初期では日本人監督が少なくなってしまったという。
選手も監督も自身が考える意図や倫理を相手に伝えることが、この先の日本サッカーの発展には必要になる。そのためには、まずは彼らの指導を変え、新たなカリキュラムを構築していかなければいけない。
長い時間がかかるかもしれないが、言葉を交わし、相互理解を深めていくことが、世界にはない日本サッカーを育てていくはずだ。
光文社
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[塾生]西本匡吾- kyougo_nishimoto
- 1987年9月生まれ。明治大学法学部在学。現在4年生ながら、新聞社から内定をもらうため就職浪人を決意する。金子塾入塾後は「とにかく現場に出ること」を意識し、スポーツの種類にとらわれず取材を行っている。将来はバスケットボールについて執筆し、日本バスケの発展に貢献したいと考えている。
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