review 書評

  • 2010年8月16日

スポーツ批評宣言あるいは運動の擁護

 「美しい」とはどういうことなのか。夕立が杉林に降り注ぐとき、野鳥が木立から飛び立つとき、ゴールキーパーが体をしならせて跳躍しセービングを見せるとき、人はその瞬間に美しいという言葉を口にする。
 「スポーツが『美しい』運動だということの原点に立ち返る必要がある」、と蓮實は言う。ここでの「運動」とは「運動会」や「運動場」の「運動」ではない。限りない無限の刹那に細分化される動きの連続、映画に置き換えれば1秒を構成する24分の1の連続のことである。
 そこには「どんな気持ち」も「どんな物語」もない。「単に運動を運動として見るために、人々は運動以外のところから目を逸らすべきである」。あのシュートを打ったときどんな気持ちでしたか、という問いほど「醜い」問いはない。
 ある状況を「醜い」と断じ、ある瞬間を「美しい」と感じる。デンマーク戦の遠藤保仁のフリーキックは、これまでの苦労話や遠藤を取り巻く家族や友人たちとは関係なしに、美しかった。
 「何が『運動』を『美しさ』へと変化させるのでしょうか。それは、潜在的なものが顕在化する一瞬に立ち会い、その予期せぬ変化を誰もが自分の肌で感じるということなのです」。
 気が付けばサッカーにおける戦術論隆盛の昨今である。○―●―△対◎―◆―●―□の攻防、それは確かに面白い。もちろん戦術は重要だ。異論はない。しかし何かが欠けていないか。
 「流れ過ぎゆく一日のなかで、自分ははたして「醜さ」を排し、「美しさ」の顕在化に加担しえたかということを、人々はあまり考えなくなってしまっている。これは、人々が美学的な趣味の判断を忘れたからではなく、ごく端的に「生きる」ことを忘れ始めていることから来ています」。
 スポーツは「運動」に過ぎない。そして私たちは「運動」を肌で感じなければならない。
 

蓮實 重彦
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(本田千尋=文)

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