review 書評
独破力
ワールドカップで僕達を最もワクワクさせてくれたのは?
松井大輔と答える声は多いのではないだろうか。
世界の包囲網を果敢に破りにかかる日本の8番に私たちは希望をのせていた。
魂のこもった守備とゴールへの仕掛け。
深い切り返しから放たれたクロスが生んだ本田圭佑のゴールを私達は生涯忘れないだろう。
本書は松井大輔の「ワールドカップまで」と「ワールドカップへの想い」を本人自ら綴った一冊だ。
岡田ジャパンが「コンセプト」に縛られていた時期、松井だけは縛られることなく個人での突破や“+α”の必要性を説いていた。本書にはそんな松井の哲学が存分にちりばめられている。一流のサッカー選手に不可欠なインテリジェンスとともに。煮えたぎる感情を冷静に把握し、見つめる。現状の分析は丁寧に行い、挫折は糧にする。そして、想いを言葉にしていく。
中学時代から鹿児島実業でのエピソード、京都での三浦知良や加茂周、朴智星らとのプロとしての生活、オリンピック代表としての経験、フランス移籍後のル・マン、サンテティエンヌ、グルノーブルでの栄光と挫折、自信と苦悩と葛藤の日々。そして、ドイツW杯落選から日本代表、南アフリカへの想い。
松井大輔のサッカーに対する情熱と歴史が詰まっている。
一つ、エピソードを紹介したい。
高校選手権の決勝で市立船橋に敗れ、鹿児島実業での高校サッカーが終わった日、
泣きじゃくるチームメートの横で、松井大輔は涙を流さなかったという。意地をはり、涙をこらえたのだそうだ。規模こそ違え、「部活」に賭けた経験のある者にとってあの涙をこらえる強さがどれほどのものかは察しがつくだろう。
ここで頭をよぎるのは私達の胸に刻まれたあのシーンだ。
松井は駒野の肩を抱き、前を向いて涙を流していた。
「サッカーで泣いたのは初めて」
パラグアイ戦後の松井のコメントは本書によって一段と重くなる。
文字通り日本代表躍進の“一翼を担った”男の言葉を今こそ堪能したい。
南アフリカでの躍動が、新たな表情とともに蘇る。
(石島啓太=文)
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