review 書評

  • 2010年6月1日

社長・溝畑宏の天国と地獄~大分トリニータの15年

 溝畑宏の15年を巡る物語には見たくもない現実が詰まっている。

 1994年に発足したチームは2008年にナビスコ杯で優勝した。
 福岡県のような百万都市でもなく静岡県のようなサッカーの伝統もない、どこにでもある小さな県のチームが成し遂げた快挙により、大分トリニータは「地方の星」と絶賛され、第一級功労者として社長の溝畑宏は全国的な脚光を浴びた。
 それなのに、どうしても溝畑宏という人間を受け入れられない人々は、特に大分県民に多い。
 翌2009年末に訪れたトリニータの経営破綻と首脳陣の刷新劇は、同時に、溝畑宏排除劇と見ることもできる。
 誰もが認めざるを得ない金策の手腕と功績を有しながら、なぜ? という外から見れば誰もが抱くであろう疑問に答えてくれるのが本書である。

 チームに対して関心も寄せないのが大多数だ。
 むしろ税金の無駄遣いだから潰してしまえと批判する人々も多い。
 激励と期待の言葉は贈るだけで、金も出さなければいっしょに汗もかいてもらえない。
 それでいて成果が上がり始めるや口を出してくる「有力者」も存在する。
 妬み嫉み足を引っ張ろうとする動きもある。
 大分を盛り上げる必要性は認めても人間関係のいざこざを呑み込めない人もたくさんいる。
 なによりスポーツに投じるだけの金銭的精神的余裕がないほど衰弱している。

 大分トリニータが発足以来ずっと直面してきたのは、地方スポーツ界の現実だった。

 職員として後には社長として溝畑宏は地方の限界を打ち破ろうと奮闘し、ある程度の成功を収めたとも言えるし、結局は地方の現実によって敗れ去ったとも言える。
 強烈な個性によって強烈な個性をもつ県外大企業の支援を得てきたとも言えるし、強烈な個性ゆえに協力者の幅を極端に狭め自滅したとも言える。

 地域密着、地方の時代、大企業依存からの脱却という言葉に美しさを感じる人にこそ、是非読んでもらいたい。
 本書で描かれているのは、これらの正義を実現するためには必ず克服されなければならない、それでいて、絶望的なまでに頑迷な地方の現実なのだ。

(小林浩宣=文)


木村 元彦
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