review 書評

  • 2010年4月15日

Hiroshima 都市と球場の物語

 スポーツ振興を目指す自治体関係者にぜひご一読をお願いしたい、広島とカープの相思相愛ぶりがおおいに描かれた一冊だ。
 不景気とされる昨今では、スポーツを取り巻く環境に後ろ向きの情報も数多い。企業は廃部という形でスポーツを手放し、財政難にあえぐ自治体には球団から提案された新スタジアムの要望を見送ったところもある。
 けれども広島は新しいスタジアムを誕生させた。
 全天候に対応し、かつ諸々のイベントにも使用できるマルチなドーム球場ではない。きれいに整備された緑が大きな青空のもとで映える、総天然芝で開放感あふれるボールパークを、である。
 くだされた判断の違いは、ひとえにスポーツを思う濃度に理由があるのだろうと、本書を読むと思う。何でもある今の時代に、スポーツだけは譲れない。明確な自覚が違いを生み出しているのである。
 では、なぜ広島はカープを求めるのだろうか。
 焦土と化した広島における復興の象徴、廃墟での生活を余儀なくされた人々にとっての明日への希望がカープだったからである。新しいスタジアムを建設する際、野球の試合での使用を第一としたボールパークにこだわったのも、この一点に求められる。
 プロ野球球団としてのカープは1949年に誕生したが、親会社を持たないため当初から財政難に苦しんだ。寮の夕食ではおかわりもできなかった状況は、プロフェッショナルというきらびやかな言葉からは想像しがたいエピソードである。そんな前途多難な球団を支えたのが市民であり地元企業だった。今ではどのスポーツチームも目指す三位一体という形だが、広島では60年も前から採用されてきた、というわけである。
 ゆえに地域の抱く思い入れは格別だ。
 我が子を思う親のようなものである。
 こうして広島にはカープが根づいた。その背中を追うのがサンフレッチェ広島であり、広島メイプルレッズをはじめとした全国リーグに所属する各チームである。地域とチームが一体となり目指すのは日本に誇るスポーツどころであり、2020年のオリンピック開催地に立候補を表明したのもその一端といえる。
 広島とカープの物語に触れると、心意気次第でスポーツと一生を共にできるのだと気づかされる。不景気だから撤退も仕方ないという文言は、もはや言い訳にしか聞こえてこない。

(小山内隆=文)

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